白峯 十七

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頼(より)朝(とも)東風(とうふう)に競(きそ)ひおこり、義(よし)仲(なか)北雪(ほくせつ)をはらうて出づるに及び、平氏の一門ことごとく西の海に漂(ただよ)ひ、遂(つひ)に讃岐(さぬき)の海志(し)戸(と)、八島(やしま)にいたりて、武(たけ)きつはどもおほく鼇(ごう)魚(ぎょ)のはらに葬(はぶ)られ、赤間(あかま)が関(せき)、壇(だん)の浦(うら)にせまりて、幼主(えうしゆ)海に入らせたまへば、軍将(いくさぎみ)たちものこりなく亡(ほろ)びしまで、露たがはざりしぞ、おそろしくあやしき話柄(かたりぐさ)なりけり。

其の後、御廟(みべう)は玉もて雕(ゑ)り、丹青(たんせい)を彩(ゑど)りなして、稜(み)威(いつ)を崇(あが)めたてまつる。かの国にかよふ人は、必ず幣(ぬさ)をささげて斎(いは)ひまつるべき御神(おんあみ)なりけらし。

現代語訳

その頃、源頼朝が東国から、東風と競い合うように兵を挙げ、木曽(きそ)義(よし)仲(なか)は北国から、雪を蹴(け)って都に進軍することに及び、平氏の一門は追われ追われてことごとく西海に漂流し、ついに讃岐の志戸の海、屋島の浦に至って、武勇の強兵(つわもの)どもの大半が魚の餌食(えじき)となりおおせ、赤間が関、壇の浦に追い詰められて、幼帝安徳(あんとく)天皇も入水(じゅすい)なされ、武将たちも残らずここに死滅してしまったという成り行きが、あの夜の新院のお言葉と少しも違わなかったのは、恐ろしくも不思議な語り草であった。

その後になって白峰のご霊廟(れいびょう)は玉をちりばめ、彩(いろど)り美しく造営して、そのご威光を尊崇(そんすう)申し上げた。この国へ行く人は、必ず供物を捧げて拝み申し上げなくてはならない御神であるということである。

語句

■頼朝-1源頼朝。義朝第三子。伊豆国蛭島(ひるがしま)に流されていたが、治承四年八月以仁王(もちひとおう)の令旨を受けて挙兵した。■東風に競ひおこり-東国の風雲に乗じて兵を挙げ。頼朝は関東で挙兵したから「東風」といった。■義仲-木曽義仲。源義賢(よしかた)(義朝の弟)の第二子。寿永元年(1182)平家討伐の兵を北陸道に進める。■北雪をはらうて出づる-「北雪」は北国の雪。降りしきる雪をついて挙兵した。 ■八島-香川県高松市の東北にある半島。平家は寿永四年、ここで義経に敗れた。■鼇魚-大亀や魚。■赤間が関-山口県下関付近の旧称。■壇の浦-関門海峡の東北部。下関市東端の海上。■幼主-八十一代安徳天皇。高倉亭第一子。母は清盛の娘徳子(建礼門院)。寿永四年三月壇ノ浦で入水。八歳。■軍将-平家一門の武将たち。■露たがはざりしぞ-崇徳院の言葉と少しも違わなかった。「露」は下に打消しの語を伴って、少しも、全くの意。■あやしき話柄-不思議な話の種。崇徳院の言葉がことごとく的中したのに驚き「あやしき」といった。■御廟-崇徳院没後二十七年の建久二年(1191)、後白河院の建立した廟院。頓証寺(とんしょうじ)という。■玉もて雕り-玉でもって飾り。■雕(ゑ)り-ちりばめる。■丹青-赤と青の絵具。■稜威-尊いご威光。■かの国-讃岐の国。■幣-神に祈るときに供える紙や布。また単に神への供え物。■斎う-慎んで神を祀ること。■なりけらし-「なり」は断定の助動詞。「けらし」は「けるらし」の略で「らし」は推量であるが、ここでは其の意味はなく、「ける」に添えて余情を持たせている。

備考・補足

<参考文献一覧>

本資料作成にあたり以下の文献を参考にしました。

・英草紙 西山物語・雨月物語・春雨物語

  一九九五年十一月十日 第一版第一冊発行
  ニ〇〇三年七月二〇日第一版第三冊発行
  発行所 小学館

・古典新釈シリーズ25 雨月物語

  一九七八年四月二十五日 初版発行
  ニ〇〇余年       重版発行
  著者 太刀川 清
  
・三省堂 全訳 読解古語辞典

  二〇十三年一月十日 第一冊発行

・完訳 日本の古典 第五十七巻 雨月物語 春雨物語

  昭和58年9月30日初版発行
  発行所 小学館

・マンガ 日本の古典 雨月物語

  一九九六年十二月十日初版印刷
  一九九六年十二月二十日初版発行
  著者 木原敏江
  発行所 中央公論社  

・図説日本の古典17 上田秋成   

  一九八九年八月二十三日 新装第一刷発行
  著者代表 松田 修
  発行所 株式会社 集英社

・雨月物語

  一九七六年三月三十日 初版発行
  一九九七年四月十日  5版発行
  原本所蔵者 国立国会図書館
  発行者   池嶋洋次
  発行所   (株)勉誠社

・日本の名作映画集28 雨月物語
 
  監督 溝口 健二
  出演 京マチ子/森雅之

・雨月物語(上)

  著者 青木政次
  1981年6月10日 第1冊発行
  1994年12月20日 第21冊発行
  発行所 株式会社講談社

・改訂版雨月物語

  発行者 青木誠一郎
  発行所 角川学芸出版
  平成十八年七月二十五日 初版発行
  平成十九年十月十五日  三版発行
  
・雨月物語

  校訂者 高田 衛・稲田篤信
  発行所 株式会社 筑摩書房
  一九九七年十月九日 第一刷発行

・雨月物語精読

  編者 稲田篤信
  発行所 勉誠出版(株)
  ニ〇〇九年四月一日 初版発行

朗読・解説:左大臣光永


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