第二十七八段 御国ゆづりの節会おこなはれて

御国ゆづりの節会おこなはれて、剣・璽(じ)・内侍所(ないしどころ)わたし奉らるほどこそ、限りなう心ぼそけれ。

新院のおりさせ給ひての春、詠ませ給ひけるとかや、

殿守のとものみやつこよそにして掃(はら)はぬ庭に花ぞ散りしく

今の世のことしげきにまぎれて、院には参る人もなきぞさびしげなる。かかる所にぞ、人の心もあらはれぬべき。

口語訳

御譲位の節会が行われて、宝剣・神璽・宝鏡をお渡しする時こそ、限りなく心細いことよ。

新院(花園上皇)がご譲位なさった春、お詠みになったとか。

主殿寮の下級役人たちが新院の御所はよそごととしてぞんざいに扱い、庭を掃いもしないので、花が散り敷いている。

新帝(後醍醐天皇)の時代の公務が忙しいのにまぎれて、院には参る人もないのは寂しいことであるよ。このような所でこそ、人のほんとうの心はあらわれてしまうのだろう。

語句

■御国ゆづり ご譲位の時群臣に酒宴を賜る儀式。 ■剣・璽・内侍所 帝位継承の証である宝剣(草薙剣)・神璽(八尺瓊勾玉)・宝鏡(八咫鏡)。 ■ほど 時。 ■新院 すでに上皇がおられる場合、あらたに上皇となった方を新院という。本院に対する言葉。 この時の新院は花園上皇。本院は後伏見上皇と後宇多上皇。 ■殿守の…「殿守」は殿守寮。「とのものみやつこ」は殿守寮の下級役人。掃除など行った。「殿守のとのもみやつこ心あらばこの春ばかり朝ぎよめすな」(拾遺集・雑・源公忠)を本歌とする。 ■今の世 新帝(後醍醐天皇)の治世。 ■ことしげき 公務が忙しいこと。

メモ

■「新院」花園上皇の側には京極派の歌人たちがつき、「新帝」後醍醐天皇の側には藤原為世らがついている。兼好は藤原為世の弟子。だから「新院」花園上皇の立場の人間ではないのだが、立場の差を越えて、花園上皇に同情し、世の無常と人の心の薄情さを訴えている。

朗読・解説:左大臣光永


スポンサーリンク

音声つきメールマガジン「左大臣の古典・歴史の名場面」のご案内

現在22000人以上が購読中。

メールアドレスを入力すると、日本の歴史・古典について、楽しくわかりやすい解説音声を無料で定期的に受け取ることができます。毎回10分程度の短い解説で、時間を取りません。楽しんで聴いているうちに、日本の歴史・古典について、広く、立体的な知識が身につきます。スマートフォン・Androidでもお聴きになれます。不要な場合はいつでも購読解除できます。

いつも使っているメールアドレスを入力して、 「無料メルマガを受け取る」ボタンをクリックしてください。次回からお使いのメールアドレスにメルマガが届きます。

≫詳しくはこちら


スポンサーリンク