第百一段 或人、任大臣の節会の内弁を勤められけるに、

或人、任大臣(にんだいじん)の節会(せちえ)の内弁(ないべん)を勤められけるに、内記(ないき)の持ちたる宣命(せんみょう)を取らずして、堂上(とうしょう)せられにけり。きはまりなき失礼(しちらい)なれども、立ち帰り取るべきにもあらず、思ひわづらはれけるに、六位外記(ろくいのげき)康綱(やすつな)、 衣(きぬ)かづきの女房を語らひて、かの宣命を持たせて、忍びやかに奉らせけり。いみじかりけり。

口語訳

ある人が、任大臣の節会(大臣就任式の後の宴会)で節会の内弁をつとめたところ、内記の持っていた宣命を取らずに、紫宸殿の床の上に上がってしまった。とんでもない失態なのだが、立ち帰って取ってくるわけにもいかない。お困りであった所、六位の外記康綱が、衣かづき姿の女房に頼んで、問題の宣命を持たせて、忍びやかに差し上げた。見事な手際であった。

語句

■任大臣 大臣の就任式の後、群臣に酒をふるまう宴会。 ■内弁 節会を取り仕切る役。 ■内記 中務省の官人。大内記二人、少内記二名。宣命を作成する。 ■宣命 天皇の公式文書。 ■堂上 紫宸殿に登ること。 ■失礼 しちらい。失態。過失。 ■外記 太政官に属し、大外記二名・少外記録二名。除目・叙位などを取り仕切る。 ■康綱 中原康綱。正和五年(1316年)権少外記(ごんのしょうげき)。文保2年(1318)少外記。建武元年(1334)権大外記。延元四年(1339)没。五十歳。

メモ

●見事な所作
●舞台での失敗を失敗と思わせない

朗読・解説:左大臣光永


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