第百二十段 唐の物は、薬の外は、なくとも事欠くまじ。

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唐の物は、薬の外は、なくとも事欠くまじ。書(ふみ)どもは、この国に多くひろまりぬれば、書きても写してん。唐土船(もろこしぶね)のたやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、所狭(ところせ)く渡しもて来る、いと愚かなり。

「遠き物を宝とせず」とも、又、「得がたき貨(たから)を貴(とうと)まず」とも、文に侍るとかや。

口語訳

中国の物は、薬の外は、無くても不自由しないだろう。書物の類は、この国に多く広まっているので、書き写すこともできる。中国の船が困難な航路で、多くのいらない物を積みこんで、船いっぱいに載せて次々と渡してくるのは、大変愚かなことである。

「遠き物を宝とせず(遠くにある物を宝と思わない)」とも、また「得がたき貨(たから)を貴(とうと)まず」(手に入れにくい宝をありがたがらない)とも、書物にあるとかいうことでございます。

語句

■写してん 完了の助動詞「つ」の未然形に、推量+可能の助動詞「む」がついたもの。~できるだろう。 ■唐土船 中国の船。 ■たやすからぬ道 困難な航路。 ■所狭く 船いっぱいに、あふれるほどに。 ■もて来る 「もて」は進行・継続。どんどん運んでくる。 ■遠き物を宝とせず 「遠き物を宝とせざれば、則ち遠き人いたる」(書経・旅獒) ■得がたき貨を貴まず 「得がたき貨を貴ばざれば、民をして盗をなさざらしむ」(老子・不尚賢) 

メモ

■わざわざ海外に行く必要はない。黙って京都へ。

朗読・解説:左大臣光永

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