第百八十一段 ふれふれこゆき、たんばのこゆき

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「『ふれふれこゆき、たんばのこゆき』といふ事、米舂(よねつ)きふるひたるに似たれば、粉雪(こゆき)といふ。『たまれ粉雪』と言ふべきを、あやまりて、『たんばの』とは言ふなり。『垣や木の股に』と謡(うた)ふべし」と、ある物知り申しき。昔より言ひける事にや。鳥羽院幼くおはしまして、雪の降るに、かく仰せられけるよし、讃岐典侍(さぬきのすけ)が日記(にき)に書きたり。

口語訳

「ふれふれこゆき、たんばのこゆき」という事は米をついてふるいにかけると白い粉が出るのが雪がそれに似ているので、粉雪という。『たまれ粉雪』と言うべきところを、間違って『丹波の』と言うのである。『垣や木の股に』と、続けて歌うべきだ」と、ある物知りが申しました。

昔から言うことなのでしょうか。鳥羽院が幼くいらしたとき、雪の降る時に、このように仰せられたことが、讃岐典侍の日記に書いてあります。

語句

■ふれふれこゆき、たんばのこゆき わらべ歌。たんばは「丹波」。 ■米舂(よねつ)きふるひたる 米をついてふるいにかけると、白い粉が出てくる。雪がそれに似ているので粉雪というという説。 ■鳥羽院 第74代天皇。堀河天皇第一皇子。白河院崩御後、崇徳・近衛・後白河3代28年間にわたって院政をしいた。 ■讃岐典侍 元讃岐守藤原顕綱の娘。堀川・鳥羽の二帝に典侍(ないしのすけ)として仕えた。堀河天皇崩御と鳥羽天皇即位の時代のことを『讃岐典侍日記』に記している。「『降れ、降れ、こ雪』と、いはけなき御けはひにておほせらるる、聞こゆる」(『讃岐典侍日記』嘉承三年正月二日条)。

メモ

■『讃岐典侍日記』 兼好は王朝女流日記文学に傾倒していた。『徒然草』の文体は『枕草子』を強く意識。

朗読・解説:左大臣光永

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