平家物語 八 額打論

こんにちは。左大臣光永です。

下鴨神社に参拝してきました。下鴨神社は、心穏やかになります。境内を流れる泉川が、ぼちゃぼちゃぼちゃ鳴る水音をきいていると、すーと心の内が晴れて、憎しみ・妬み・不安・焦りといったものが水とともに流され、体内が清らかな水に満たされる感覚があります。周囲の緑が、泉川に濃い影を落としているのも、すばらしいです。

本日は『平家物語』の第8回「額打論(がくうちろん)」です。

永万元年(1165)、二条天皇が亡くなり、幼帝・六条天皇が即位します。二条天皇葬送の夜、延暦寺と興福寺の間でいさかいが起こります。

天皇崩御の際は墓の四方に寺の額を掲げるしきたりで、その順序も決まっていました。しかし延暦寺が慣例を無視して興福寺より先に額をかけたため、興福寺の僧が怒って額を叩き割ります。

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【抜粋】

うれしや水、なるは滝の水、日はてるともたえずとうたへ

【語句】
■永万元年 1165年。 ■御不豫 御不快。病。 ■大蔵大輔 大蔵省の次官。 ■伊吉兼盛(いきのかねもり)が娘 六条天皇の母。 ■今上一宮の 今上帝(二条天皇)の第一皇子であるところの。正しくは第二皇子。順仁=六条天皇。 ■受禅 「禅」は譲る。前の天皇から帝位を譲られること。 ■有職 宮中の有職故実(しきたり、所作などの知識)に詳しい人。 ■童帝(とうたい) 幼帝。 ■周公旦 周の武王の弟。武王の没後、幼帝成王が即位したが、周公旦がが6年間、補佐した。 ■南面 『易経』に天子に南面して天下をおさめるということから、天子の位につくこと。 ■一日万機(いちじつばんき)の政(まつりごと) わずか一日のうちにもさまざまなことが起こるので、油断できない。そういう心構えで行う政治のこと。 ■忠仁公 太政大臣藤原良房。娘の明子(あきらけいこ)は文徳天皇に嫁ぎ、惟仁親王、後の清和天皇を生んだ。 ■いつしかなり 早すぎる。 ■物さわがしともおろかなり 「気ぜわしい」と言っても、十分に言い尽くせない。 ■同七月廿七日 二条上皇崩御は永万元年(1165)7月25日。23歳。陵は京都市北区平野八丁柳町の「香隆寺陵(こうりゅうじのみささぎ)」がそれ。 ■玉の簾、錦の帳のうち 後宮をさす。 ■香隆寺 現存せず。京都市北区衣笠にあった。 ■蓮台野 船岡山の西。現紫野。風葬の地だった。 ■船岡山 大徳寺の南。平安京の北方にあたる。 ■延暦寺 延暦7年(788)伝教大師最澄の草創。天台宗総本山。 ■興福寺 藤原鎌足が山階に創設(山階寺)。和銅3年(710)息子の不比等が平城京に移す。藤原氏の氏寺。 ■大衆 衆徒。大勢の衆徒。 ■南北二京 平城京と平安京。 ■まづ聖武天皇の… 東大寺→興福寺→延暦寺→園城寺の順で額を打ったということ。 ■額をうつ 御墓所の四方の門に、寺の扁額をかけること。 ■淡海公 藤原不比等の諡。 ■教待和尚(きょうだいかしょう) 園城寺(三井寺)を智証大師円珍に譲った。 ■智証大師 円珍。延暦寺五代座主。貞観10年(868)園城寺を譲られる。 ■園城寺 三井寺とも。天武天皇15年(686)天智天皇・弘文天皇(大友皇子)・天武天皇の勅願寺として、大友皇子の息子・大友与多王(おおともの よたのおおきみ)の創建と伝える。 ■興福寺の西金堂 聖武天皇皇后・光明子が、亡き母・県犬養橘三千代の一周忌供養のため建立した建物。現存せず。阿修羅像以下の八部衆や十大弟子などの像は取り出され、現在、国宝館に安置。 ■堂衆 堂に所属し仏事を行ったりする僧。 ■大悪僧 乱暴者の僧。「悪」は勢い盛んであること。激しいこと。 ■黒糸縅 鎧の礼(さね)(鉄または革で作った小さな板)を黒い糸で綴っもの。 ■しら柄 白木の柄。 ■くきみじか 長刀の持ち方。刃→前の手→後ろの手と続くが、刃と前の手との間を狭く、前の手と後ろの手との間を長く持つ持ち方。 ■萌黄縅 鎧の礼(さね)を萌黄色(黄色がかった緑)の糸で綴ったもの。 ■黒漆 黒い漆塗りの。 ■うれしや水 延年舞(法会の後に演じた芸能)の歌詞。滝の水がとうとうと流れるさまから、祝福の意をこめて歌われた。ここでは祝福の歌を歌いながら破壊行為を行っているのが肝。類歌「滝は多かれど、うれしやとぞ思ふ、鳴る滝の水、日は照るとも、たうでとうたへ、やれことつとう」(『梁塵秘抄』2)

…というわけで、二条天皇葬送の夜、延暦寺が慣例を無視して、興福寺より先に額をかけたので、興福寺が怒って額を叩き落とすところまででした。ここからさらなる騒動に発展していきます。

二条天皇の陵は京都市北区衣笠。私のうちのすぐ近くです。住宅街の中にぽつんとあります。23歳で亡くなった短命な天皇ですが、なんだか親しみを感じます。

次回「清水寺炎上」に続きます。

朗読 平家物語

朗読・解説:左大臣光永