大伴旅人 酒を讃める歌十三首
こんにちは。左大臣光永です。木曜日の午後、いかがお過ごしでしょうか?
私は先日、川越の喜多院で、五百羅漢を見てきました。石造りの羅漢さまが、五百あるんですよ。一つ一つ違う顔をしていて、すばらしい。人間観察眼の粋です。これはぜんぶ一人の手によって掘られたのか?何人かの作者がいるのか、気になりました。
さて明日(10/28)1330~東京多摩永山公民館で、私左大臣光永による「足利将軍家の興亡」を開催します。今回は第一回足利尊氏です。私の説明に加え、会場のみなさまと『太平記』などの本文を声を出して読みますので、頭より体で歴史の名場面を体感することができます。東京近郊の方はぜひご来場ください。
http://www.tccweb.jp/tccweb2_024.htm
そして、先日再発売しました。「聴いて・わかる。日本の歴史~飛鳥・奈良」。すでに多くのお買い上げをいただいています。ありがとうございます。
http://sirdaizine.com/CD/AsukaNara.html
特典の「解説音声 額田王の歌」は、11月10日お申込みまでです。お申込みはお早目にどうぞ。
本日は『万葉集』より大伴旅人の「酒を誉むる歌」十三首です。
↓↓↓音声が再生されます↓↓
http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Manyo03_338.mp3
大伴旅人の大伴氏は代々朝廷の軍事部門を担当してきた名門です。父大伴安麻呂は壬申の乱(672年)で大海人皇子方について功績を立てました。母は巨勢郎女(こせのいらつめ)。息子は『万葉集』の篇者として有名な大伴家持です。
720年、九州で隼人族が反乱を起こすと、討伐軍の大将として旅人が遣わされました。旅人は敵の城を次々と破り快進撃を続けますが…同年、右大臣藤原不比等が亡くなったことに伴い旅人は平城京に召し返されます。
この時の九州行きの経験を買われてか、60歳すぎて大宰帥(だざいのそち。大宰府の長官)に任じられ、大宰府に下りました。大宰府では部下にあたる山上憶良や、義妹の大伴坂上郎女などと文芸趣味をわかちあい、後世「筑紫歌壇」とよばれるにぎわいを作っていきます。
ことに、山上憶良との出会いは才能に火をつけたようで、旅人の歌のほとんどは晩年の大宰府時代に詠まれました。
「酒を讃める歌」十三首は特に有名です。
酒を讃める歌 十三首
験(しるし)なき物を思はずは 一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあるらし(巻三・三三八)
悩んでも仕方ないことで悩むより、一杯の濁り酒を飲むほうがよい。
酒の名を聖(ひじり)と負(おお)せし 古(いにしへ)の大き聖の言(こと)の宜(よろ)しき(巻三・三三九)
中国魏の時代に禁酒令が出ましたが、人々は清酒を聖人、濁酒を賢人といって酒を飲み続けました。その故事にのっとり、酒の名に聖人・賢人と読んだ昔のエライ人の言葉の、なんと素晴らしいこと。
古の七(なな)のに賢(さか)しき人どもも 欲りせしものは酒にしあるらし(巻三・三四○)
中国魏の末期から西晋時代にかけて「竹林の七賢」といって、政治を忘れ、世の中の喧騒から離れて過ごした人々がいました。その、無欲であった昔の賢い人たちも、酒だけは、欲しがったようだ。
賢(さか)しみと物言ふよりは酒飲みて 酔哭(ゑひなき)するし益(まさ)りたるらし(巻三・三四一)
賢こぶって物を言うよりは、酒を飲んで酔っ払ってワアワア泣いたりするほうがましだよ。
言はむ術(すべ)、せむ術知らに極まりて貴き物は酒にしあるらし(巻三・三四二)
言いようもなく、なすすべもない時、貴くも私を慰めてくれるのは酒であるようだ
なかなかに人はあらずは 酒壺に成りにてしかも酒に染みなむ(巻三・三四三)
いっそ人でないなら酒壺になって、いつも酒浸りでいたい。
あな醜(みにく)賢しらをすと 酒飲まぬ人をよく見れば猿にかも似る(巻三・三四四)
ああ醜い。賢こぶってるなあと酒を飲まない人をよく見れば猿に似ているじゃないか。
価(あたひ)無き宝と言ふとも一杯(ひとつき)の濁れる酒にあに益(まさ)らめや(巻三・三四五)
値段もつけられない高価な宝といっても、一杯の濁酒にどうして勝っていようか。
夜光る玉といふとも酒飲みて 情(こころ)を遣(や)るにあに若かめやも(巻三・三四六)
夜光る玉といった高価な宝よりも、酒を飲んで心を慰めているほうがずっといい。
世の中の遊びの道に怜(たの)しきは 酔泣(ゑひなき)するにあるべくあるらし(巻三・三四七)
世の中のどんな遊びの道よりも楽しいのは、酔っぱらってわんわん泣いていることであるようだ。
此の世にし楽しくあらば来む世には 虫にも鳥にも我は成りなむ(巻三・三四八)
この世さえ楽しくあれば、生まれ変わった後の世なんか、虫になろうと鳥になろうと俺はどうでもいいね。
生ける者遂には死ぬるものにあれば 此の世なる間(ま)は楽しくをあらな(巻三・三四九)
生きている者はだれでも最後は死ぬんだから、生きている間は楽しくやろうよ。
黙(もだ)をりて賢(さら)しらするは酒飲みて 酔泣(ゑひなき)するになほ如かずけり(巻三・三五○)
黙って賢そうにしているよりも、酒を飲んで酔っ払ってワアワア泣いているほうがずっといい。
即興で詠んだ歌ですので、一首一首の完成度はさほど高くないですが、とにかく酒が好きなこと、そして人生の悲哀のようなものが漂っています。李白や陶淵明の詩にも通じる世界ですね。
絵に描かれた大伴旅人はたいてい赤ら顔で酒が入ってます。なかなか、憎めないオッサンというイメージです。
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第一部「飛鳥時代篇」は、蘇我馬子や聖徳太子の時代から乙巳の変・大化の改新を経て、壬申の乱まで。
第二部「奈良時代篇」は、長屋王の変・聖武天皇の大仏建立・鑑真和尚の来日・藤原仲麻呂の乱・桓武天皇の即位から長岡京遷都の直前まで。
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本日も左大臣光永がお話ししました。ありがとうございます。ありがとうございました。
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