宇治拾遺物語 12-14 東人(あづまうど)、歌詠(よ)む事

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原文

今は昔、東人(あづまうど)の、歌いみじう好(この)み詠みけるが、蛍を見て、

あなてりや虫のしや尻(しり)に火のつきて小人玉(こひとだま)とも見えわたるかな

東人のやうに詠まんとて、まことは貫之が詠みたりけるとぞ。

現代語訳

今は昔、東国の人でたいへん歌を詠むのが好きな者がいて、蛍を見て、

あなてりや虫のしや尻に火のつきて小人玉ともみえわたるかな
(ああずいぶん光っているよ。虫の尻に火がついて、小さな人魂のように次々と飛んで行くのが見えるなあ)

東国の人が詠んだように詠もうと、本当は貫之が詠んだのだということである。                                               

語句  

■東人-東国の人。足柄(あしがら)の関以東の地域の人々を念頭に置いたものか。■あなてりや-ああ、光っているよ。京言葉では、「てるや(照るや)」とあるべきところを訛(なま)ったか。■虫のしや尻-虫めの尻っぺたに。{しや」は対称の卑語。東国の田舎言葉の感じを出そうとしたか。■小人玉-小さな人魂。死体から抜け出た魂は、雨の夜など、青白く光って宙を飛ぶと信じられていた。

備考・補足

■和歌はみやびな歌語にて詠まれるべきもの、という貴族世界の伝統的な規範を逸脱して、訛ったり、俗語を使ったりした歌なので、粗野な東人に仮託して作った歌ということにされたのであろう。

朗読・解説:左大臣光永