『源氏物語』の現代語訳つくってます(十四)~横笛・鈴虫

こんにちは。左大臣光永です。

本日は、『源氏物語』の現代語訳をつくっていますということで、その経過報告のような話です。14回目です。

このシリーズはどちらかというと私自身のモチベーション維持と、備忘録という意味合いでしゃべっています。

なので『源氏物語』をまったくご存知ない方に対しては、説明不足なところがあります。それでもよいという方だけ、お聞きください。

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関係系図

■柏木の一周忌
■朱雀院、女三の宮に芋を贈る
■源氏、幼い薫を愛でる
■夕霧、落葉の宮を口説く
■夕霧と雲居雁
■夕霧の夢に柏木あらわれる
■女三の宮の護持物の開眼供養
■源氏、女三の宮になおも未練
■源氏、女三の宮の将来に配慮
■中秋の名月の晩 源氏と女三の宮
■源氏と冷泉院 公にできない父と子
■源氏、秋好中宮の出家の意思をいさめる

といった内容で語っていきます。帖でいうと第三十七帖「横笛」と第三十八帖「鈴虫」です。

過去の配信ぶん
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■柏木の一周忌
源氏物語の現代語訳を作っています。第三十七帖「横笛」に入りました。

柏木の一周忌に源氏と夕霧が熱心に法事をいとなむ場面です。ここまで柏木がいかに生前慕われていたが、公私を問わず、いろいろな人が柏木を愛していたさまが、これでもかと描かれてきました。

柏木は公人として優秀であっただけでなく、優しい人柄で、身分を問わず親しさの度合いを問わず、多くの人から慕われていたと。作者は惜しみなく柏木をほめたたえます。それにしては柏木の生前は、あまり褒めてなかったような気がしますが。

■朱雀院、女三の宮に芋を贈る
つづいて朱雀院が寺の近くでとれた筍と山芋を、女三の宮に歌を添えて贈る場面です。

世をわかれ入りなむ道はおくるとも同じところを君もたづねよ
(この世を別れて入っていく道は、貴女は私よりは遅くなるでしょうが、同じ野老…所…極楽浄土を貴女も訪ねてください)

うき世にはあらぬところのゆかしくてそむく山路に思ひこそ入れ

(この辛い現世にはないところ…極楽浄土に行きたいので、父上が世を背いてお入りになられた山路に心惹かれております)

朱雀院は出家後も娘の女三の宮のことを心配しまくっていますが、出家の身であることをわきまえて、直接会いにいくことは控えているのが、いじらしいです。

朱雀院がこもった「山寺」は仁和寺がモデルといわれますので、「そばの山で山芋が取れた」というのは、仁和寺裏手の宇多天皇陵の辺りかなと想像します。朱雀院のモデルは宇多天皇とも言われていますし。

宇多天皇陵にいく途中の道は、京都市内が一望でき、すばらしい眺めです。こういうことも考えながら歩くと、源氏物語の京都と、現在の京都が重なり合って、面白いです。

■源氏、幼い薫を抱きかかえる
源氏物語の現代語訳を作っています。よちよち歩きをはじめた薫を、源氏が抱きかかえる場面です。

おお…この子はどことなく、立派な顔立ちをしているじゃないか。今からこんなにイケメンじゃあ、後々心配だぞ。そのうち女宮さまとスキャンダルでも起こして、大変なことになるかもしれないとか、冗談を言いながら、一方で源氏は、つぶやくのです。この子らが成長していく末までは、私は見届けることはできないかもしれないな…と、春ごとに花は咲くが、それを毎年見れるかどうかは寿命しだいだ…などと、古今集の歌を引用しながら語る源氏。いいですねー。中年以降、源氏は愚痴っぽく性格がねじけていく一方でしたが、薫が生まれてから性格が丸くなってきたように思います。

源氏物語の後半はだらだらして退屈だとよく言われますが、私はそうは思わず、むしろ後半の方がしみじみと味わい深い場面が多いと思っています。

特に柏木が死んだ後、多くの人が悲しんでいる場面はつくづく胸打たれるものがあり、何度か涙がでました。

■夕霧、落葉の宮を口説く
源氏物語の現代語訳を作っています。夕霧が柏木の未亡人、落葉の宮のもとに足繁く通って、口説いているくだりです。

夕霧は、落葉の宮があまりにも口説き落とせないので、後々強引なやり方をするようになりますが、まだはじめの頃はゆったりと、余裕があります。

月さし出でて曇りなき空に、羽翼《はね》うちかはす雁《かり》がねも列《つら》を離れぬ、うらやましく聞きたまふらんかし。風|肌《はだ》寒く、ものあはれなるにさそはれて、箏《さう》の琴《こと》をいとほのかに掻き鳴らしたまへるも奥深き声なるに、いとど心とまりはてて、なかなかに思ほゆれば、琵琶《びは》を取り寄せて、いとなつかしき音《ね》に想夫恋《さうふれん》を弾きたまふ。

琵琶で、想夫恋の曲を奏でる。夫を想うて恋ふと読む、想夫恋。そこでこう、未亡人の心のヒダに分け入ろうとするんですね。なかなか風情のあるくだりです。

このあたりは文章がむずかしくて、訳がぜんぜん進みませんでした。それは御息所と落葉の宮の母子が、教養がありすぎるので、いちいち古典の言葉などをふまえて話すので、訳すのに苦労したのです。

■夕霧と雲居雁
源氏物語の現代語訳をつくっています。夕霧が、落葉の宮の母御息所から柏木の形見の横笛をさずり、深夜になって自宅に帰ってくる場面です。

三条の自宅には、北の方である雲居雁と、子供たち、女房たちがすし詰め状態で寝ています。しかも格子をおろして、閉め切って。なんということだ。こんな月の美しい晩に、あまりにも風情がないではないかと、ぶつぶつ言って女房たちに格子を上げさせるが、雲居雁は、夫が浮気してることはわかっているので、寝たふりをして、ひたすら聞こえないふりをしているという。家庭生活の一こまが描かれます。雲居雁がぷんぷん怒ってるかんじが、ほほえましいです。

■夕霧の夢に柏木あらわれる
夕霧が御息所からさずかった柏木の形見の笛を、なんとなく吹いてまどろんだ夢の中に、柏木が現れます。

夢の中の柏木は、夕霧が最後に見た時の、あの病床にふせっていたときの白い袿姿のままで、

「その笛を伝えたい人は他にある」という意味の歌を読んで、すうと消えていきます。

消えるような透明感のある柏木の姿が、つよく印象に残る場面です。ここも『あさきゆみめし』のイメメンな柏木をイメージしながら読むとよいです。

■女三の宮の護持物の開眼供養
源氏物語の現代語訳を作っています。第三十八帖「鈴虫」に入りました。

女三宮の護持物…普段手元に置いている仏の、開眼供養をするということで、その盛大な準備のさまが描かれます。

仏具の名称がずらずらと並んで、とにかく絢爛豪華に仏様を飾り立てている様子が描かれます。しかし仏教てこういうもんなのかなと思います。ただ念仏すれば救われるという浄土教とはだいぶ違います。平等院鳳凰堂の絢爛豪華な華やかさに代表されるような、庶民にはとても近づきようがない世界です。

ところでこの場面、仏様を飾るのに、御帳台をお堂に見立てて飾るんですよ。これ異常なことじゃないかなと読んでて思いました。御帳台というのは、つまりベッドです。

この場所で女三の宮は源氏と夜ごとの営みをしていたのだし、柏木にレイプされたのもここです。そういう生々しい場所で仏様を祀るのはどういう考えなのかなと。むしろ穢れを払う意味もあったのか知らないですが、現代人の感覚からはちょっと理解できないですね。

■源氏、女三の宮になおも未練
源氏物語の現代語訳を作っています。秋の六条院において、庭を作り替えて野原のようにして、秋の虫を放ちます。そこで女三の宮が秋の虫の声をきいてしみじみ感じ入っていると、源氏が、秋の虫の声を聞くのにこと寄せて、女三の宮に、今なお色めいた気持ちを持ち続けていることをうちあけるので、女三の宮は、出家の身なのに、こんなことされたら困りますと、困惑するという場面です。

さすが源氏。出家した自分の妻に対しても、依然として欲情をもよおしつづけている。お盛んなことです。

■源氏、女三の宮の後々まで配慮
源氏物語の現代語訳を作っています。源氏が自分の死後のことまで考えて、女三の宮の生活の世話をしてやろうとしているくだりです。住まいも、収入も、自分が死んだ後まで、女三の宮がのびのびと暮らせるように整えてやるのです。源氏は単なる浮気者でなく、かかわった女性たちの面倒を後々まで見てやるのは、好感もてます。

■中秋の名月の晩 源氏と女三の宮
源氏物語の現代語訳を作っています。中秋の名月の晩、女三の宮の部屋に源氏が訪ねてきて、2人で虫の声をきいて、歌を読み交わし、琴を奏でる場面です。大変風情があります。

おほかたの秋をばうしと知りにしをふり棄てがたきすず虫のこゑ

と忍びやかにのたまふ、いとなまめいて、あてにおほどかなり。「いかにとかや。いで思ひのほかなる御|言《こと》にこそ」とて、

こころもて草のやどりをいとへどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ

(女三の宮)おほかたの……

(大体のところは秋は物憂い季節と知ってしまったのに、未練を捨てきれないのは鈴虫の声です)

とひっそりとおっしゃるのが、まことに優美で、品があり大らかな感じである。(源氏)「何とおっしゃいましたか。まったく心外なお言葉で」とおっしゃって、

(源氏)こころもて……

(ご自分から草の宿(六条院)をお捨てになった貴女ですが、それでもやはり鈴虫の声だけは古びないものですね)

■源氏と冷泉院 公にできない父と子
そこへ源氏の腹違いの弟である兵部卿宮とその取り巻きの人々が訪ねてきて月を見ながらの虫の宴となります。

さらに冷泉院のもとから誘いがあり、源氏たち一行は、冷泉院のお屋敷を訪ねていき、詩歌の宴をひらきます。

この辺は、極めて風情ゆたかで、一日で訳してしまうのがもったいないと思えるぐらいでした。

源氏と冷蔵院は実の親子であるが、お互いにそれを明かすことができない、父よ子よと言い合うことができない苦しい立場です。

それを考えると一層味わい深い場面といえます。ここは短いですしそんなに文章も難しくないので原文をよみます。

うるはしかるべきをりふしは、ところせくよだけき儀式を尽くしてかたみに御覧ぜられたまひ、また、いにしへのただ人ざまに思しかへりて、今宵は軽々《かるがる》しきやうに、ふとかく参りたまへれば、いたう驚き待ち喜びきこえたまふ。ねびととのひたまへる御|容貌《かたち》、いよいよ異《こと》ものならず。いみじき御盛りの世を御心と思し棄てて、静かなる御ありさまにあはれ少なからず。

院(源氏)は、きちんと正装すべき時は、周囲を圧倒する、威厳ある儀式を万事ととのえて、お互いにご対面になられるのだが、また一方で、若い頃の、何者でもなかった頃のようなお気持ちになられて、今宵は気軽な感じで、ふらりとこうしてお参りになるので、院(冷泉院)はたいそう驚き迎えてお喜び申される。院(冷泉院)の立派にご成熟なさっている御顔立ちは、いよいよ父院(源氏)とそっくりである。たいそうご繁栄していらした治世を御自らお思い立ちになられてご退位されて、静かにおすまいのご様子は、しみじみ胸打たれるものが多い。

■源氏、秋好中宮の出家の意思をいさめる
源氏物語の現代語訳を作っています。秋好中宮(六条御息所の娘、源氏の養女)が、出家をしたいと言っているのを、源氏が、もうちょっと待ちなさいと諌めている場面です。先ほどの名月の場面は文章も素直で風情がありましたが、こういう入り組んだ話になると、とたんに文章がくどく、しつこくなります。

源氏が中宮のことを気遣って言ってるのは分かるんですが、とにかく長い。長すぎます。

何十行にもわたって、途切れることなく、延々と言葉が繋がるので、朗読すると呼吸が苦しくなります。短くまとめてからしゃべってくださいと、六条院に対してお願い申し上げたい。

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朗読・解説:左大臣光永