四編下 鳴海より宮へ

原文

旅人のいそげば汗に鳴海がたここもしぼりの名物なれば

かくよみ興じて田ばた橋をうちわたり、かさでら観音堂にいたる。笠をいただきたもふ木像なるゆへ、この名ありとかや

執着のなみだの雨に濡れじとやかさをめしたるくはんをんの像(ぞう)

それよりとべ村、山ざき橋、仙人塚をうちすぎ、やうやく宮の宿にいたりし頃は、

現代語訳

鳴海より宮へ

旅人のいそげば汗に鳴海がたここもしぼりの名物なれば

このように詠み遊びながら田畑橋を渡り、笠寺観音堂に着く。笠を被られた木像なので、この名があるそうだ。

執着のなみだの雨に濡れじとやかさをめしたるくはんをんの像(ぞう)

それから戸部村、山崎橋、仙人塚を過ぎて、ようやく宮の宿に着いた頃は、

語句

■旅人のいそげば汗に~-「汗になる」に「鳴海」をかけ、「汗」の縁語に「しぼり」を出した。旅人が道を急ぐと、びっしょり汗になる。そこを鳴海と名付けるももっとも、しぼりの名物がある。『東海道宿村大概帳』に「此宿名物鳴海絞之有り。有松村にて売捌いたす」。■田ばた橋-『諸国道中記』に「田畠橋、長サ十五間」。ただし『大概帳』に「中島橋、十七間」とある。これか。■かさでら観音堂-『諸国道中記』に「笠寺くわんをん堂有り、三十三年目に開帳有り。寺号は転輪山竜福寺(『東海道名所図絵』には、天林山笠覆寺)と云ふ。・・・笠を召したる御すがたの木像也。故に笠寺と名づく。願にもかさを奉る也」。地名を笠寺村(名古屋市南区内)。■執着の~-「執着」は仏語で、物に固執して離れない心。これは成仏のために最も悪い。一首の意は、参詣人の執念の炎(ほむら)で流す涙の雨にぬれまいと思われてか、ここの観音像は笠を召している。■とべ村-戸部村。愛知郡(名古屋市南区内)のうち、鳴海から三十二丁。■山ざき橋-『諸国道中記』に「山さき橋」。山崎村(南区内)は鳴海から一里一丁。■千人塚-『諸国道中記』に「右の方に仙人の塚有り。むかしもろこしの仙人、うき木ニのりて、なるみの浦にあがり、此所にとどまりて、日をおくり、後に大竜となりて天に上りぬ。天竜の客是なり。其住みける所を仙人の塚と云ふ也」(『東海道名所記』によるか)。■宮の宿-尾張国愛知郡熱田の宿の別名(今の名古屋市熱田区内)。鳴海より一里半十二丁(『大概帳』は一里半六丁)。熱田の宮があるゆえの別称。     

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朗読・解説:左大臣光永

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