【桐壺 06】帝、桐壺更衣を失い悲しみに暮れる 

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原文

はかなく日ごろ過ぎて、後のわざなどにも、こまかにとぶらはせたまふ。ほど経るままに、せむ方なう悲しう思さるるに、御方々の御宿直なども、絶えてしたまはず、ただ涙にひちて明かし暮らさせたまへば、見たてまつる人さへ露けき秋なり。「亡きあとまで、人の胸あくまじかりける人の御おぼえかな」とぞ、弘徽殿などには、なほゆるしなうのたまひける。一の宮を見たてまつらせたまふにも、若宮の御恋しさのみ思ほし出でつつ、親しき女房、御乳母などを遣はしつつ、ありさまを聞こしめす。

現代語訳

あっという間に月日は過ぎて、(帝は)死後七日ごとの仏事なども、こまかに弔われた。時がたつにつれて、どうしようもなく悲しく思われて、女御更衣の方々を夜、おそばに侍らせることも、まったくなさらず、ただ涙にくれて明かし暮らしなさると、(帝のそのようなお姿を)ご覧になっている方々にとってさえ、涙に暮れるような露の多い秋である。

(弘徽殿女御)「亡くなった後まで、人の思いを晴らそうとしない天皇の御おぼえの深さですよ」と、弘徽殿女御などは、やはりまだ許せないようにおっしゃった。

一の宮をご覧になられても、若宮の御恋しさのみ思い出されて、親しい女房、御乳母などを遣わして、(若宮の)ありさまをお尋ねになる。

語句

■はかなく日ごろ過ぎて あっという間に月日がすぎるさま。時間経過をあらわす。 ■後のわざ 死後四十九日まで、七日ごとに行う仏事。 ■露けき 露が多く湿っぽい=涙に暮れることの多い。 ■胸あく さっぱりさせる。思いを晴らす。 ■弘徽殿 一宮の母、右大臣家の娘。弘徽殿は清涼殿の北にある殿舎。 ■聞こしめす お尋ねになる。

朗読・解説:左大臣光永

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