【桐壺 15】左大臣家と右大臣家の関係

この大臣の御おぼえいとやむごとなきに、母宮、内裏《うち》のひとつ后腹《きさいばら》になむおはしければ、いづかたにつけてもいとはなやかなるに、この君さへかくおはし添ひぬれば、春宮の御祖父《おほぢ》にて、つひに世の中を知りたまふべき、右大臣《みぎのおとど》の御|勢《いきほひ》は、ものにもあらずおされたまへり。御子どもあまた、腹々《はらばら》にものしたまふ。宮の御腹は、蔵人少将《くらうどのせうしやう》にて、いと若うをかしきを、右大臣の、御|仲《なか》はいとよからねど、え見過ぐしたまはで、かしづきたまふ四の君にあはせたまへり、劣らずもてかしづきたるは、あらまほしき御あはひどもになん。

現代語訳

この左大臣は帝の御おぼえのまことに厚い上に、(姫君の母宮は)、帝と同じ后腹でいらっしゃるので、(姫宮は)父方も、母方も、どちらもたいそうご立派である上に、この源氏の君まで婿としてお加わりになったのだから、春宮の御祖父として最終的には天下の政治をお取り仕切りになるに違いない、右大臣の御勢いは、物の数でもないほどに圧迫されてしまわれた。

(左大臣は)御子たちが多くの腹々にいらっしゃる。姫君と同じ母宮の御腹には、蔵人少将で、たいそう若く美しいので、右大臣は、左大臣家との仲はたいそう険悪ではあるが、無視することがおできにならず、大切にかわいがっていらっしゃる四の君と結婚させなさっているのだが、このように左大臣家が源氏の君を、右大臣家が蔵人少将を、それぞれ婿として大切になさっているのは、理想的な御関係であろうか。

語句

■母宮 姫君(葵の上)の母宮。左大臣の北の方。 ■内裏のひとつ后腹 内裏は帝。帝とおなじ后の腹。左大臣の北の方は帝と同じ后の腹。 ■いづかたにつけても 姫君(葵の前)は、父方、母方のどちらもすばらしいの意。 ■つひに世の中を知りたまふべき 結局は天下の政治をお取り仕切りになさるに違いない。 ■蔵人少将 後の頭の中将。葵の上の兄。

朗読・解説:左大臣光永

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