【末摘花 09】源氏、頭中将に冷やかされる

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原文

二条院におはして、うち臥したまひても、なほ思ふにかなひがたき世にこそと思しつづけて、かるらかならぬ人の御ほどを、心苦しとぞ思しける。思ひ乱れておはするに、頭中将おはして、「こよなき御朝寝《あさい》かな。ゆゑあらむかしとこそ思ひたまへらるれ」と言へば、起き上りたまひて、「心やすき独り寝の床にてゆるびにけりや。内裏《うち》よりか」とのたまへば、「しか。まかではべるままなり。朱雀院《すざくゐん》の行幸《ぎやうがう》、今日なむ、楽人《がくにん》、舞人《まひびと》定めらるべきよし、昨夜《よべ》うけたまはりしを、大臣《おとど》にも伝へ申さむとてなむ、まかではべる。やがて帰り参りぬべうはべる」と、いそがしげなれば、「さらば、もろともに」とて、御粥《かゆ》強飯《こはいひ》召して、まらうとにもまゐりたまひて、引きつづけたれど、ひとつにたてまつりて、「なほいとねぶたげなり」と、とがめ出でつつ、「隠いたまふこと多かり」とぞ恨みきこえたまふ。事ども多く定めらるる日にて、内裏にさぶらひ暮らしたまひつ。

現代語訳

源氏の君は二条院にお帰りになって、横になられても、やはり思っても滅多にかなうことのない男女の仲であるよと思い続けて、とはいえ姫君の高貴なご身分を思うと、このまま見捨てるのも気の毒だとお思いになっていた。

源氏の君があれこれ思い悩んでいらっしゃるところに、頭中将がいらして、(頭)「けっこうな御朝寝ですね。わけがあるだろうと存じますが」と言えば、源氏の君は起き上がりなさって、(源氏)「気軽な独り寝の床で、くつろいでしまったのだよ。宮中から来たのかい」とおっしゃると、(頭)「そうです。退出してそのまま来ました。朱雀院の行幸について、まさに今日、楽人、舞人を決められるということを、昨夜承りましたのを、父左大臣にも伝え申そうということで、退出してきました。すぐに参内せねばなりません」と、忙しそうなので、(源氏)「それなら、一緒に」といって、源氏の君は、御粥・強飯を召し上がって、客人(頭中将)にもおさしあげになって、車は二台続けて行くが、ひとつ車に同乗されて、(頭)「やはりひどく眠たそうですね」と、咎め立てをしつつ、(頭)「お隠しになっていることが多いです」と恨み言を申し上げなさる。

この日はさまざまな事が決定される忙しい日であったので、宮中で日暮れまで過ごされた。

語句

■かるらかならぬ 「軽らかならぬ」は軽くはない=高貴。 ■大臣 頭中将の父、左大臣。 ■御粥強飯 「粥」は米を炊いたもの。現在の「ごはん」。「強飯」は米を蒸したもの。

朗読・解説:左大臣光永

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