【末摘花 18】大晦日、源氏、末摘花に御衣を贈る

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原文

晦日《つごもり》の日、夕つ方、かの御衣箱《ころもばこ》に、御料《れう》とて人の奉れる御衣《ぞ》一具《ひとぐ》、葡萄染《えびぞめ》の織物の御衣《ぞ》、また山吹かなにぞ、いろいろ見えて、命婦ぞ奉りたる。ありし色あひをわろしとや見たまひけんと、思ひ知らるれど、「かれはた、紅《くれなゐ》のおもおもしかりしをや。さりとも消えじ」と、ねび人どもは定むる。「御歌も、これよりのは、ことわり聞こえてしたたかにこそあれ、御返りは、ただをかしき方にこそ」など、口々に言ふ。姫君も、おぼろけならでし出でたまひつるわざなれば、物に書きつけておきたまへりけり。

現代語訳

大晦日の夕方、例の御衣箱に、源氏の君の御召料として人が献上した御衣一揃え、葡萄染(えびぞめ)の織物の御衣、また山吹襲かなにかの御衣、いろいろ見えるのを、命婦が源氏の君のお使いで姫君に差し上げる。

以前、姫君が源氏の君に贈った色あいを良くないと、源氏の君は御覧になったのだろうと、思い知られるが、「あれはあれで、紅色で重々しかったのですから。まさか見劣りはしないでしょう」と、年配の女房たちは評定する。

(女房)「御歌も、こちらから送った歌は、理屈が通ってしっかりしていますが、御返歌は、ただおもしろいという筋の事だけで」など、口々に言う。

姫君も、並大抵のことでなく歌をお詠みになったことであったので、その歌を、物に書き付けて置いておかれるのだった。

語句

■葡萄染 経糸が赤で横糸が紫の織物。 ■山吹 襲の色目。表薄朽葉、裏黄色。 ■ありし色あひ 末摘花が源氏に送ってきた御衣の色合い。 ■ねび人

朗読・解説:左大臣光永

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