【紅葉賀 13】帝、源氏の左大臣家への不実をたしなめる

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原文

かやうに、とどめられたまふをりをりなども多かるを、おのづから漏《も》り聞く人、大殿《おほいどの》に聞こえければ、「誰《たれ》ならむ。いとめざましきことにもあるかな。今までその人とも聞こえず、さやうにまつはし、戯《たはぶ》れなどすらんは、あてやかに心にくき人にはあらじ。内裏《うち》わたりなどにて、はかなく見たまひけむ人を、ものめかしたまひて、人や咎めむと隠したまふななり。心なげにいはけて聞こゆるは」など、さぶらふ人々も聞こえあへり。

内裏《うち》にも、かかる人あり、と聞こしめして、「いとほしく大臣《おとど》の思ひ嘆かるなることも、げに。ものげなかりしほどを、おほなおほなかくものしたる心を、さばかりのことたどらぬほどにはあらじを、などかなさけなくはもてなすなるらむ」とのたまはすれど、かしこまりたるさまにて、御答《いら》へも聞こえたまはねば、心ゆかぬなめり、といとほしく思《おぼ》しめす。「さるは、すきずきしううち乱れて、この見ゆる女房にまれ、またこなたかなたの人々など、なべてならず、なども見え聞こえざめるを、いかなるものの隈《くま》に隠れ歩《あり》きて、かく人にも恨みらるらむ」とのたまはす。

現代語訳

このように、源氏の君が夜の出歩きを紫の上のためにおやめになられることも多いのを、自然と漏れ聞く人が出て、左大臣家に申し上げたので、(左大臣家の女房たち)「誰なのでしょう。ひどく目障りなことですよ。今までその人とも知られず、そのようにお側近くに侍って、戯れなどするようなのは、上品で奥ゆかしい女ではないでしょう。宮中あたりなどで、かりそめに見初めた女を、もっともらしくお取り扱いになって、人が非難するだろうとお隠しになっているのでしょう。分別が浅く、幼なげな人と噂されているのは、どういうことでしょう」など、女房どもも申し合っている。

帝も、源氏の君にそういう人がいる、とお耳にされて、(帝)「気の毒に、左大臣が嘆いておられるということも、なるほどもっともだ。左大臣が、まだ幼い頃のそなたを、分にすぎるほどに可愛がられたその御志がどんなものか、それぐらいのことがわからない年ではあるまいに、どうしてそんな情けないことをするのだろう」と仰せになるが、源氏の君は恐れ入っているようすで、御答えも申し上げられないので、帝は、あの左大臣家の姫が気に入らないのだなと、源氏の君を気の毒に思われる。

(帝)「そうはいっても、色めいた乱れたふるまいをして、宮中で出逢った女にせよ、またあちこちの女たちにせよ、特別に打ち込んでいるなどとも見えないし、どんな物陰に隠れ歩いて、こんなに人から恨まれるのだろう」と仰せになる。

語句

■ものめかしたまひて 「ものめかす」は一人前のものとして扱う。 ■おほなおほな 分不相応に。本来左大臣はそんな一人の皇子を特別に可愛がるべき立場ではないのに、そんな道理をこえて、幼少の源氏の君をかわいがったということ。 ■隈 物陰。人目につかない所。女のもとに通うこと。

朗読・解説:左大臣光永

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