【花宴 04】源氏、紫の上の成長に満足

大殿《おほいどの》にも久しうなりにける、と思せど、若君も心苦しければ、こしらへむ、と思して、二条院へおはしぬ。見るままに、いとうつくしげにりて、愛敬《あいぎやう》づき、らうらうじき心ばへいとことなり。飽《あ》かぬ所なう、わが御心のままにをしへなさむ、と思すにかなひぬべし。男の御をしへなれば、すこし人馴れたることや交《まじ》らむ、と思ふこそうしろめたけれ。日ごろの御物語、御琴《こと》などをしへ暮らして、出でたまふを、例の、と口惜しう思せど、今はいとようならはされて、わりなくは慕ひまつはさず。

現代語訳

左大臣邸へも長らくご無沙汰していると源氏の君は思われるが、若君(紫の上)のことも気にかかるので、言いなだめようと思われて、二条院へいらした。

若君(紫の上)は、目に見えて、とても可愛く成長して、魅力がそなわり、洗練されていることは世間の他の娘とは違っている。

何の不満な点もなく、ご自分の御心のままに教え育てよう、との源氏の君のお心づもりに、若君(紫の上)はきっとかなうようになるだろう。

ただし男の御おしえであるので、すこし人馴れした性質がまじるかもしれない、と思うのが気がかりである。

一日中、最近の出来事の御話をして、御琴などを教えて、夜になって源氏の君が出発されるのを、若君(紫の上)は、またいつものようにお出かけになって…と、残念にお思いになるが、最近はとてもよく慣らされて、むやみに源氏の君にまとわりついて後をおいかけることはしない。

語句

■こしらへむ 「こしらへる」はなだめる。すかす。慰める。 ■愛敬づき 「愛敬づく」で魅力がそなわる。 ■らうらうじき 「らうらうじ」は洗練された才気があること。 ■出でたまふ 「大殿にも久しうなりにける、と思せど」を受けて、左大臣邸=葵の上のもとに行く。 ■例の 源氏がよその女のところにお通いであることを紫の上はわかっていて、そのことを残念がる。

朗読・解説:左大臣光永

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