【薄雲 05】尼君、姫君つき女房たちに贈り物 源氏、年の瀬に大堰を訪問

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原文

大堰《おほゐ》には、尽きせず恋しきにも、身のおこたりを嘆きそへたり。さこそ言ひしか、尼君もいとど涙もろなれど、かくもてかしづかれたまふを聞くはうれしかりけり。何ごとをか、なかなかとぶらひきこえたまはむ。ただ、御方の人々に、乳母よりはじめて、世になき色あひを思ひいそぎてぞ、贈りきこえたまひける。待ち遠ならむも、いとどさればよと思はむに、いとほしければ、年の内に忍びて渡りたまへり。いとどさびしき住まひに、明け暮れのかしづきぐさをさへ離れきこえて思ふらむことの心苦しければ、御文なども絶え間なく遣はす。女君も、今はことに怨《ゑ》じきこえたまはず、うつくしき人に罪ゆるしきこえたまへり。

現代語訳

大堰では、どこまでも姫君が恋しく、それにつけても、女君は、わが身のあやまちをいよいよ嘆いていた。尼君も、姫君を二条院にお渡しするようには言ったものの、ひどく涙もろくなっているのだが、それでもこうして姫君が大切に可愛がられていらっしゃるのを聞くのはうれしいのだった。どんなことを、わざわざお見舞い申し上げられよう。ただ、姫君つきの女房たち
、乳母からはじめて、世にまたとない色あいの衣を急ぎととのえて、お贈り申し上げなさった。

源氏の君は、大堰では君の訪れを待ち遠しく思っているだろうが、君訪れが途絶えると、いよいよ「やっぱり」と思うだろうことが不憫とお思いになって、年の内にお忍びでおいでになった。いよいよ寂しくなったすまいに、明け暮れかわいがっていた姫君までも手放してどんなふうに思っているだろうかと、それが心苦しいので、お手紙なども絶え間なく遣わす。女君(紫の上)も、今は別段お恨み申し上げもせず、かわいらしい人に免じて大目に見てさしあげていらっしゃる。

語句

■身のおこたり 二条院に姫君を渡してしまったこと。 ■そへたり 源氏の君の来訪が少ない悲しみに、姫君を奪われた悲しみが加わる。 ■御方の人々 姫君つきの女房たち。姫君に直接贈り物するのは紫の上の手前はばかりがあるので。 ■さればよ 源氏の君は姫君を二条院に引き取ったら大堰邸から足が遠のくだろうということ。 ■明け暮れのかしづきぐさ 姫君のこと。 ■怨じきこえたまはず 紫の上はそれまでまだ見ぬ明石の君にさかんに嫉妬していたが、今や姫君可愛さのほうがまさり、明石の君への嫉妬や源氏への非難をそれが上回っているのである。

朗読・解説:左大臣光永

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