【少女 22】雲居雁、内大臣邸へ去る 夕霧、嘆きつつ夜を明かし、翌朝、嘆きの歌を詠む

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原文

男君は、立ちとまりたる心地も、いと人わるく胸|塞《ふた》がりて、わが御方に臥《ふ》したまひぬ。御車三つばかりにて、忍びやかに急ぎ出でたまふけはひを聞くも、静心なければ、宮の御前より「参りたまへ」とあれど、寝たるやうにて動きもしたまはず。涙のみとまらねば、嘆きあかして、霜のいと白きに急ぎ出でたまふ。うち腫《は》れたるまみも、人に見えんが恥づかしきに、宮、はた、召しまつはすべかめれば、心やすき所にとて、急ぎ出でたまふなりけり。道のほど、人やりならず心細く思ひつづくるに、空のけしきもいたう曇りてまだ暗かりけり。

霜氷うたてむすべる明けぐれの空かきくらし降るなみだかな

現代語訳

男君(夕霧)は、後に残されたお気持も、ひどく決まりが悪く胸が塞がる思いで、ご自分のお部屋に横になられた。御車三両ばかりで、先払いの声を抑えて、急いでご出発になる気配である。それを聞くにつけても落ち着かないので、大宮の御前から「こちらへおいでなさい」とあるが、寝ているふりをして動きもなさらない。涙がとめどなく流れるので、嘆きつつ夜をあかして、翌朝、霜がたいそう白いころに急いでご出発される。涙に腫れている目元も、人に見られるのが恥ずかしい上、大宮がまた、おそばにお呼び寄せになりそうなので、気のおけない所にと、急いでご出発になられるのだった。道中、誰のせいでもなく自ら求めた悲しみなのだと、心細く思いつづけていらっしゃると、空模様もひどく曇っていて、まだ暗いのだった。

(夕霧)霜氷うたて…

(霜も氷もひどく私を責めるように結んでいる、夜明けの暗い空を、さらに暗くするように降るわが涙よ)

語句

■御車三つばかりにて 内大臣、雲居雁と乳母たち、女房たちがそれぞれの車に乗っている。 ■忍びやかに 先払いの声を抑えさせて。 ■涙のみとまらねば 「のみ」は強意。 ■霜のいと白きに 早朝。 ■心やすき所 人目を気にせず思い切り泣ける場所。二条院東院の勉強部屋。 ■人やりならず 人のせいでなく、すべて自分が招いたことだと思い詰める。 ■霜氷… 「うたて」は副詞。ますます。ひどく。異様に。情けなく。

朗読・解説:左大臣光永

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