【行幸 10】内大臣、源氏と玉鬘の関係を疑う

原文

大臣、うちつけに、いといぶかしう、心もとなうおぼえたまへど、「ふと、しか受け取り親がらむも、便《びん》なからむ。尋ね得たまへらむはじめを思ふに、定めて心きよう見放ちたまはじ。やむごとなき方々を憚《はばか》りて、うけばりてその際《きは》にはもてなさず、さすがにわづらはしう、ものの聞こえを思ひて、かく明かしたまふなめり」と思すは口惜しけれど、「それを瑕《きず》とすべきことかは。ことさらにも、かの御あたりに触ればはせむに、などかおぼえの劣らむ。宮仕ざまにおもむきたまへらば、女御などの思さむこともあぢきなし」と思せど、ともかくも思ひよりのたまはむおきてを違《たが》ふべきことかは、とよろづに思しけり。かくのたまふは、二月|朔日《ついたち》ごろなりけり。

現代語訳

内大臣は、急な話であるし、たいそう不審で、気がかりにお思いなさるが、「にわかに姫君を受け取って親ぶるのも、不都合であろう。源氏の大臣が姫君を探し出されたはじめを想像するに、きっと潔白なご関係で放っておかれることはあるまい。身分の高い御方々に遠慮して、表立ってそういう立場として処遇なさらず、そうはいってもやはり面倒で、世間の聞こえを思って、こうして私に打ち明けなさったのだろう」とお思いなさるにつけ恨めしいが、「それを欠点とすべきだろうか。仮に私のほうから進んでその娘(玉鬘)を大臣(源氏)の御所に近づけさせたところで、どうして大臣に対する世間の評判が落ちるだろう。宮仕えさせようというお心づもりであるならば、弘徽殿女御などが義妹を召し使うことに抵抗をおぼえられるだろう。それもつまらぬことだ」とお思いになるけれど、「とにかく、源氏の大臣がお考えになり仰せになることに背くわけにはいかない」と、あれこれお考えになるのだった。こう源氏の大臣から仰せがあったのは二月朔日ごろであった。

語句

■いぶかしう 源氏が玉鬘をどのように迎えとったか不審がる。やはり源氏はそのあたりをぼかして内大臣に伝えたらしい。 ■心もとなう 玉鬘が源氏に養われていることを心配する。 ■心清う見放ちたまはじ 源氏が玉鬘を愛人にしているだろうと疑う。 ■やむごとなき方々 六条院の御方々。おもに紫の上と明石の君。 ■うけばりて 「受け張る」はでしゃばる、我が者顔にふるまうが原義。 ■その際 愛人という立場。 ■さすがに ひそかに愛人関係をつづけていたとはいえ、やはり隠しきれないで。 ■それを瑕とすべきことかは 内大臣は、玉鬘が源氏のような権勢家の愛人となっても、それは将来に差し支えないと考える。 ■ことさらにも… 内大臣は、玉鬘が源氏と愛人関係になっていることはどうとも思わないが、もし宮仕えするとなると、弘徽殿女御は義妹を召し使うことになり、それには抵抗をしめすだろうと考える。このあたり暗号文のように入り組んでおり解読は困難をきわめる。

朗読・解説:左大臣光永