【真木柱 25】北の方との関係 男君たち、玉鬘になつく 真木柱の嘆き

原文

かのもとの北の方は、月日隔たるままに、あさましとものを思ひ沈み、いよいよほけ痴《し》れてものしたまふ。大将殿の、おほかたのとぶらひ何ごとをもくはしう思しおきて、君達をば変らず思ひかしづきたまへば、えしもかけ離れたまはず、まめやかなる方の頼みは同じことにてなむものしたまひける。姫君をぞたへがたく恋ひきこえたまへど、絶えて見せたてまつりたまはず。若き御心の中に、この父君を、誰《たれ》も誰もゆるしなう恨みきこえて、いよいよ隔てたまふことのみまされば、心細く悲しきに、男君たちは常に参り馴れつつ、尚侍《かむ》の君の御ありさまなどをも、おのづから事にふれてうち語りて、「まろらをもらうたくなつかしうなんしたまふ。明け暮れをかしきことを好みてものしたまふ」など言ふに、うらやましう、かやうにてもやすらかにふるまふ身ならざりけんを嘆きたまふ。

あやしう、男女《をとこをむな》につけつつ、人にものを思はする尚侍《かむ》の君にぞおはしける。

現代語訳

あの、大将(髭黒)のもとの北の方は、月日がたつにつれて、呆れたことだと物思いに沈み、いよいよぼけてわけがわからなくなっていらっしゃる。大将殿が、ひととおりの世話は、何ごとをも細々と気遣いなさって、男君たちを以前と変わらず大切にしていらっしゃるので、北の方も完全に縁が切れてしまわれるでもなく、実際的な方面のこと以前と同じように頼っていらっしゃっるのであった。

大将は姫君(真木柱)をたえがたいほど恋しくお思いでいらっしゃるが、まったく北の方にお逢わせにはならない。姫君(真木柱)は、幼い御心の中にも、この父君(髭黒)を、誰も誰もゆるせない者として恨み申し上げて、ますます遠ざけてばかりなので、心細く悲しいのだが、男君たちは、常に尚侍の君(玉鬘)のもとに参っては、尚侍の君のご様子などをについても、自然と事にふれて姫君(真木柱)に語って、「女君(玉鬘)は、私たちのことをも、かわいがってくださり、大切にしてくださいます。明け暮れ風情のあることを好んでいらっしゃいます」など言うにつけ、姫君(真木柱)はうらやましく、こんなふうに自由にふるまうことのできないわが身であることを、お嘆きになる。

不思議と、男であれ女であれ、人に物思いをさせる尚侍の君でいらっしゃるのであった。

語句

■かのもとの北の方 「もとの北の方」と明記することで現在は玉鬘が北の方であることが強調される。 ■おほかたのとぶらひ 夫婦関係は途絶えているが生活上の必要な援助はしているのである。 ■まめやかなる方の頼み 主に経済面をいう。 ■誰も誰も 主に式部卿宮家の人々が。 ■男君たち 二人の男君は髭黒とともに自邸に暮らしているが、時々北の方のもとに行って近況報告をしているのだろう。 ■

朗読・解説:左大臣光永