【若菜下 01】柏木、小侍従からの返事に困惑

ことわりとは思へども、「うれたくも言へるかな、いでや、なぞ。かくことなることなきあへしらひばかりを慰めにてはいかが過ぐさむ、かかる人づてならで、一言《ひとこと》をものたまひ、聞こゆる世ありなんや」と思ふにつけても、おほかたにては惜しくめでたしと思ひきこゆる院の御ため、なまゆがむ心や添ひにたらむ。

現代語訳

こういうつれない返事が来ることは当然とは思うが、(柏木)「憎たらしくも言うものだな。いや、なに。このような無難な返事ばかりを慰めにして、どうして過ごしていけるものか。このように人づてでなく、せめて一言なりとも直接お言葉をかけてくださり、私からも申し上げる折が得られぬだろうか」と思うにつけても、大体においてはもったいなく、すばらしい御方と存じ上げる六条院(源氏)に対して、変にゆがんだ気持が加わってきたようだ。

語句

■ことわりとは思へども 前巻から直接つづく。小侍従からの返事に対する柏木の感想。 ■うれたくも 「うれたし」は腹立たしい。 ■かかる人づて 小侍従を中にはさんだやり取り。

朗読・解説:左大臣光永