【夕霧 23】夕霧、法事を開催 致仕の大臣、不快に思う

かくて、御|法事《ほふじ》に、よろづとりもちてせさせたまふ。事の聞こえ、おのづから隠れなければ、大殿《おほひどの》などにも聞きたまひて、さやはあるべきなど、女方《をむながた》の心浅きやうに思しなすぞわりなきや。かの昔の御心あれば、君達《きむだち》もまでとぶらひたまふ。誦経《ずきやう》など、殿よりもいかめしうせさせたまふ。これかれも、さまざま劣らずしたまへれば、時の人のかやうのわざに劣らずなむありける。

現代語訳

こうして、大将(夕霧)は、御息所の四十九日の御法事を、万事責任をもっておさせになる。夕霧と落葉の宮の噂は、自然と伝わっていたので、大殿(致仕の大臣)などもお耳にされて、そのようなことがあってよいものかなど、女(落葉の宮)のほうが軽率であるように思うようになさるのも、やむをえないことであるよ。昔の柏木との縁故もあるから、君達(柏木の兄弟たち)も参上して法事にご列席になられる。お布施など、致仕の大臣よりも立派におさせになる。その他の誰彼も、さまざまに、他と劣らずご供養なさったので、御息所の四十九日の法事は、その時代の権勢家のそれに劣らず立派なものであった。

語句

■御法事 御息所の四十九日の法事。 ■よろづとりもちて 夕霧が御息所の四十九日の法事を取り仕切るのは、自分が落葉の宮の夫となるという世間に向けたアピール。 ■わりなきや 作者の感想。「わりなし」はここでは無理もないこと。 ■かの昔の御心 昔の柏木との縁故。 ■君達 致仕の大臣家の男子たち。 ■誦経 誦経の僧に対する布施など。

朗読・解説:左大臣光永