【幻 08】花散里よりの夏衣、歌の贈答

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夏の御方より、御|更衣《ころもがへ》の御|装束《さうぞく》奉りたまふとて、

夏衣たちかへてける今日ばかり古き思ひもすすみやはせぬ

御返し、

羽衣のうすきにかはる今日よりはうつせみの世ぞいとど悲しき

現代語訳

夏の御方から、御衣替えの御装束を差し上げなさるということで、

(花散里)夏衣……

(夏衣にお召し替えになる今日だけは、昔からの思いもかきたてらることでしょう)

御返し、

羽衣の……

(羽衣が薄いものに変わる今日以降は、このはかない空蝉の世がいっそう悲しいものに思える)

語句

■夏の御方 花散里。六条院東北の夏の町にいる。 ■御更衣 四月一日と十月一日に衣装や調度品を替える行事。この日、妻が新調した衣装を夫に贈る。紫の上の生前は紫の上が衣装を新調し源氏に贈っていた。紫の上が亡くなったので今は花散里が贈るのである。 ■夏衣… 「古き思ひ」は懐旧の情。紫の上の生前の思い出のことをいう。 ■羽衣の… 「うつせみ」は元「現《うつ》し臣《おみ》」。現世を生きる人。これに「空蝉」の字が当てられた。「羽衣」は花散里の歌の「夏衣」に対応。「うすき」は「空蝉」の縁語。花散里は万事、控えめで、源氏の愛を受けることを諦めており、「足るを知る」女性として描かれている。

朗読・解説:左大臣光永

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