【幻 14】九月九日、被綿を見て故人を思い涙する
九月になりて、九日、綿おほひたる菊を御覧じて、 もろともにおきゐし菊の朝露もひとり袂《たもと》にかかる秋かな
現代語訳
九月になって、九日、綿で覆った菊を御覧になって、
(源氏)もろともに……
(あの人と二人で起きて綿を置いた菊の朝露も、今は私ひとりの袂にかかるだけの秋であるなあ)
語句
■九日 九月九日重陽の節句。 ■綿おほひたる菊 菊の被綿《きせわた》。九月九日の行事。菊の花を綿で覆い、花の露で濡れた綿で体を拭って長寿を祈る。 ■もろともに… 「おき」は「起き」と「置き」をかける。「もろともにおきゐし秋の露ばかりかからんものと思ひかけきや」(後撰・哀傷 玄上朝臣女)によるか。
朗読・解説:左大臣光永