第八十八段 或者、小野道風の書ける和漢朗詠集とて持ちたりけるを

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或者、小野道風の書ける和漢朗詠集とて持ちたりけるを、ある人、「御相伝、浮ける事には侍らじなれども、四条大納言(しじょうのだいなごん)撰ばれたる物を、道風書かん事、時代やたがひ侍らん。覚束なくこそ」と言ひければ、「さ候へばこそ、世にありがたき物には侍りけれ」とて、いよいよ秘蔵(ひそう)しけり。

口語訳

ある者が、小野道風の書いた和漢朗詠集として持っていたのを、ある人が、「先祖伝来の言い伝えが根拠のないことというわけでは無いでしょうが、四条大納言藤原公任卿が編纂された和漢朗詠集を、それより前の時代の小野道風が書いたということは、時代が違ってございましょう。あやしいことです」と言った所、「だからこそです。世にもめずらしい物なのでございます」といって、ますます大切にしまっておいた。

語句

■小野道風 小野篁の孫。平安時代中期の人物。藤原佐理・藤原行成とともに三蹟と称された能書家。康保3年(966年)没。この年藤原公任が生まれている。 ■和漢朗詠集 藤原公任撰。二巻。朗詠に向いた漢詩文中の名句約600句と和歌約200首をおさめる。 ■御相伝 言い伝え。 ■浮ける事 根拠のない事。 ■四条大納言 藤原公任(966-1041)。公任は道風の没年に生まれている。小野宮太政大臣藤原実頼の孫。関白太政大臣藤原頼忠の子。母は代明(よあきら)親王の女。正二位権大納言に至り、四条大納言ともいわれた。漢詩文・和歌・管弦すべてにすぐれた当時最高の文化人。「三十六歌仙」の選者『和漢朗詠集』の選者としても知られる。百人一首に「滝の音はたえて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こへけれ」が採られる。 ■覚束なくこそ 後に「覚ゆれ」などが省略されている。あやしいものです。

メモ

●滝の音は…
●白楽天
●頼朝のしゃれこうべ。清盛のしびん。

朗読・解説:左大臣光永

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