第百五十四段 この人、東寺の門に

この人、東寺の門に雨宿りせられたりけるに、かたはものどもの集りゐたるが、手も足もねぢゆがみ、うちかへりて、いづくも不具に異様(ことよう)なるを見て、とりどりにたぐひなき曲者なり、尤も愛するに足れりと思ひて、まもり給ひけるほどに、やがてその興つきて、見にくく、いぶせく覚えければ、ただすなほにめづらしからぬ物にはしかずと思ひて、帰りて後、この間植木を好みて、異様に曲折あるを求めて目を喜ばしめつるは、かのかたはを愛するなりけりと、興なく覚えれば、鉢に植ゑられける木ども、皆堀り捨てられにけり。さも有りぬべき事なり。

口語訳

この資朝卿は、東寺の門に雨宿りなさっていた所、身障者たちが集まっていたが、手も足もねじゆがみ、反り返って、誰もが不具であり異様であるのを見て、さまざまに比べようもない変わり者である、大いに愛するに足ると思って、見守っておられる内に、すぐにその興が尽きて、醜く、いとわしく思ったので、ただ素直で珍しくないのが一番と思って、帰って後、この間植木を好んで、異様に曲り折れたのを買い求めて目を喜ばせていたのは、あの障碍者たちを愛するようなものだと、つまらなく思ったので、鉢に植えておられた多くの木を、皆堀り捨てられたということだ。いかにも、ありそうなことだ。

語句

■この人 資朝卿。ここまで三段資朝の逸話が続く。 ■東寺 金光明四天王教王護国寺の通称。真言宗東寺派の総本山。京都市南区九条大宮西に現存。平安京造営時に桓武天皇により旧羅城門の東に造営された(羅城門西の西寺は後に廃される)。弘仁14年(823年)嵯峨天皇より空海に下賜された。以後、真言密教の道場として栄える。 ■うちかへりて ひっくり返って。 ■曲者 変わり者。 ■尤も 大いに。 ■まもる 見守る。 ■いぶせし 不快だ。

メモ

朗読・解説:左大臣光永

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