第二百九段 人の田を論ずるもの、訴へに負けて

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人の田を論ずるもの、訴へに負けて、ねたさに、「その田を刈りて取れ」とて、人をつかはしけるに、先(ま)づ、道すがらの田をさへ刈りもて行くを、「これは論じ給ふ所にあらず。いかにかくは」と言ひければ、刈るものども、「その所とても、刈るべき理(ことわり)なけれども、僻事(ひがごと)せんとてまかる者なれば、いづくをか刈らざらん」とぞ言ひける。理いとをかしかりけり。

口語訳

ある人で、その人は田の所有権を争って訴訟をしていたのだが、訴訟に負けて、腹立たしさに、「その田を刈り取って来い」といって、人を遣わしたところ、まず、途中の道の田までもずっと刈っていくのを、「これは訴訟で争われている所ではない。なぜこんなことをるすのか」と言われたので、刈る者たちは、「問題の田だって、刈るべき道理は無いのに、メチャクチャなことをしようとして我らは参る者であるので、どこの田であろうと、刈らないことがあろうか」と言った。たいそう面白い理屈であった。

語句

■人の田を論ずるもの 「の」は同格の格助詞。「人」と「論ずるもの」は同一人物。「人で、田を論ずるもの」。「論ずる」は訴訟して所有権を争うこと。 ■訴え 訴訟。 ■ねたさに 憎らしさに。くよしさに。いまいましさに。 ■道すがらの 途中の道の。 ■刈りもて行く ずっと刈って行く。「もて」は動詞の連用形について下の動詞につながる接続助詞。 ■僻事 間違ったこと。不正行為。 ■まかる 「行く」の謙譲語。

メモ

■一人殺すも百人殺すも同じ的ヤケクソさ
■句読点無しで一息にたたみかける文章

朗読・解説:左大臣光永

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