【少女 31】夕霧、進士に及第 五位侍従となる

かくて大学の君、その日の文《ふみ》うつくしう作りたまひて、進士《しんじ》になりたまひぬ。年|積《つも》れるかしこき者どもを選《え》らせたまひしかど、及第《きふだい》の人わづかに三人なんありける。秋の司召《つかさめし》に、かうぶり得て、侍従《じじゆう》になりたまひぬ。かの人の御こと、忘るる世なけれど、大臣の切《せち》にまもりきこえたまふもつらければ、わりなくてなども対面《たいめん》したまはず。御|消息《せうそこ》ばかり、さりぬべき便りに聞こえたまひて、かたみに心苦しき御仲なり。

現代語訳

かくして大学の君(夕霧)は、朱雀院行幸の日の詩賦を立派にお仕上げになって、進士になられた。その日の受験者は、年の功を積んだすぐれた人たちをお選びになったが、及第した人はわずかに三人であった。

秋の司召に叙爵して、侍従におなりになった。あの姫君(雲居雁)の御ことは、忘れる時とてないが、内大臣がひたすら監視なさっているのも辛いので、無理に都合をつけてお逢いにはならない。お手紙だけを、しかるべきついでにお届け申しあげて、お互いに心苦しい御仲である。

語句

■その日の文 朱雀院行幸の日の詩賦。 ■文章生。式部省試験の合格と同じ扱いになった。 ■年積れるかしこき者ども 「才かしこしと聞こえたる学生十人を召す」(【少女 29】)。 ■かうぶり得て 従五位下に叙せられること。叙爵。 ■侍従 中務省に属し、天皇に近侍して業務を行う。

朗読・解説:左大臣光永

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