【真木柱 18】髭黒、玉鬘の宮仕えに気をもむ

原文

宿直所《とのゐどころ》にゐたまひて、日一日《ひひとひ》聞こえ暮らしたまふことは、「夜さりまかでさせたてまつりてん。かかるついでにと思し移るらん御宮仕なむやすからぬ」とのみ、同じことを責めきこえたまへど、御返りなし。さぶらふ人々ぞ、「大臣の、心あわたしきほどならで、まれまれの御参りなれば、御心ゆかせたまふばかり、聴許《ゆるされ》ありてをまかでさせたまへと聞こえさせたまひしかば、今宵《こよひ》はあまりすがすがしうや」と聞こえたるを、いとつらしと思ひて、「さばかり聞こえしものを、さも心にかなはぬ世かな」とうち嘆きてゐたまへり。

現代語訳

大将殿は宿直所にいらして、一日中、女君(玉鬘)に申し上げなさることは、「夜になったらご退出なさっていただきましょう。こうした機会に……と心変わりするような御宮仕えは心配です」とばかり、同じことを申しておせきたてなさるが、女君からご返事はない。お仕えする女房たちが、「大臣(源氏)が、そう急がないで、まれのご参内なのだから、帝がご満足なさるまでおそばにお仕えして、お許しがあってから退出なさい、と申しあげていらっしゃったのですから、今夜退出するのでは、あまりにあっさりしてはおりませんか」と申し上げているのを、大将はひどくつらいことに思って、(髭黒)「あれほど申し上げておいたのに。こうも思い通りにならぬ夫婦関係であることよ」とため息をついていらっしゃる。

語句

■宿直所 髭黒は右近衛大将。宮中の宿直所に泊まる。 ■かかるついでに 前に「かやうに御心やりてしばしは過ぐいたまはましと思ひあへり」(【真木柱 17】)とあった。玉鬘は出仕前は宮仕えに消極的だったが、いざ出仕してみると予想外の快適さに心が動きはじめている。 ■さも心にかなはぬ世 「世」は玉鬘との夫婦関係をさす。

朗読・解説:左大臣光永