【夕霧 14】諸方より弔問 朱雀院よりの文
所どころの御とぶらひ、いつの間《ま》にかと見ゆ。大将殿も限りなく聞き驚きたまうて、まづ聞こえたまへり。六条院よりも、致仕《ちじ》の大殿《おほとの》よりも、すべていと繁《しげ》う聞こえたまふ。 山の帝も聞こしめして、いとあはれに御文書いたまへり。宮はこの御|消息《せうそこ》にぞ、御《み》ぐしもたげたまふ。
日ごろ重く悩みたまふと聞きわたりつれど、例もあつしうのみ聞きはべりつるならひにうちたゆみてなむ。かひなき事をばさるものにて、思ひ嘆いたまふらむありさま推《お》しはかるなむあはれに心苦しき。なべての世のことわりに思し慰めたまへ。
とあり。目も見えたまはねど、御返り聞こえたまふ。
現代語訳
あちこちからのご弔問が、いつの間に知れたのかというほど次々と届く。大将殿(夕霧)も限りなく聞き驚かれて、まっさきにお悔やみを申し上げなさる。六条院(源氏)からも、致仕の大臣からも、すべてたいそう頻繁にお悔やみを申し上げなさる。
山の帝(朱雀院)もお耳にされて、まことに悲しくお手紙をお書きになられる。宮はこの朱雀院からのご連絡に、はじめて御首をおあげになる。
(朱雀院)このところ重くわずらっていらっしゃるとずっと聞いてはおりましたが、いつも病が重いとばかり聞いておりましたことに慣れておりまして、つい油断しておりました。言ってもかいのないことはともかくとして、宮が思い嘆いていらっしゃるだろうご様子を推察しますにつけお気の毒で心苦しいことです。いったい人の生死は世の道理とお思いになって御心を慰めてください。
とある。宮は涙で目もお見えにならないが、お返事を差し上げなさる。
語句
■山の帝 朱雀院。落葉の宮の父。西山の寺(仁和寺を比定)にすむ。 ■御ぐしもたげたまふ 夕霧からの文も、六条院、致仕の大臣からの文も落葉の宮を動かさなかったが、朱雀院からの文がとどいてようやく頭を上げる。 ■うちたゆみてなむ 下に「見舞いを怠った」の意を補い読む。実際には出家の身で親族を心配するのは修行の妨げになると自重していた(【横笛 02】)。 ■かひなき事 御息所の死。