第百三十一段 貧しき者は財をもて礼とし、

貧しき者は財をもて礼とし、老いたる者は力をもて礼とす。おのれが分を知りて、及ばざる時は速やかにやむを智といふべし。

許さざらんは、人の誤りなり。分を知らずして強ひて励むは、おのれが誤りなり。

貧しくして分を知らざれば盗み、力衰へて分を知らざれば病を招く

口語訳

貧しい者は財貨で報いることを礼とし、年老いた者は力で報いるのを礼とする。自分の限界を知って、及ばない時はすぐに止めるのを智慧というのだ。それを許さないなら、その許さない人が間違っている。自分の限界を知らずに無理に励むのは、自分が間違っている。

貧しいのに分際をわきまえず(贅沢をしようとすれば)盗み、力が衰えているのに分際をわきまえず(体を酷使すれば)病気になってしまう。

語句

■財をもて礼とし 「貧者は貨財を以て礼となさず、老者は筋力を以て礼となさず」(礼記・曲礼上)をふまえる。本文は礼記の解くことと逆のことを言い、それによって世の中の現実を揶揄した。 ■分 分際。限界。

メモ

■ブラック企業で一日でも働くとか愚の骨頂。今すぐやめるべし。
■あわない相手と見たら、すぐに切ってよし。
■稼げる金は、世の中に提供できるものの価値と量によって決まる。それ以上期待するは分知らず。

朗読・解説:左大臣光永

■『徒然草』朗読音声の無料ダウンロードはこちら
■【古典・歴史】メールマガジン
【古典・歴史】YOUTUBEチャンネル