第百五十六段 大臣の大饗は

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大臣の大饗は、さるべき所を申しうけておこなふ、常の事なり。宇治左大臣殿は、東三条殿(とうさんじょうどの)にておこなはる。内裏にてありけるを、申されけるによりて、他所へ行幸ありけり。させることのよせなけれども、女院(にょういん)の御所など借り申す、故実(こしつ)なりとぞ。

口語訳

大臣の就任の時のお披露目式は、しかるべき所を願い申しうけて行うのが、常の事である。宇治左大臣藤原頼長さまは、東三条殿にて行われた。ここは内裏であったのだが、左大臣殿が願い申されたことによって、帝はよその御所へ行幸されたのだ。

これといった縁故はなくても、女院の御所などをお借り申すのが、昔からのしきたりであるということだ。

語句

■大臣の大饗 大臣が就任した時に、大臣以下の人々を招いて行う宴会。披露宴。 ■申しうけて 願い出て借りうけて。 ■宇治左大臣殿 宇治悪左府藤原頼長。忠実の子。久安5年(1149年)左大臣。保元の乱で戦死。37歳。 ■東三条殿 代々の藤原氏氏の長者の邸宅。二条通の南、町口通りの西に南北二町を占めた。忠実はいったん長男忠通に与えたが、後に奪って次男頼長に与えた。 ■内裏にてありけるを 東三条殿が内裏であったのを。しかし東三条殿が内裏であった事実はなく、兼好の記憶違いと思われる。近衛・後白河帝の内裏であった別の東三条殿と混同したか。 ■申されけるにより 大臣がお願い申上げたことにより。 ■ことのよせ 縁故。 ■女院 天皇の生母・准母・三后・女御・内親王などのうち「院」「女院」の号を受けた人。「にょいん」とも読む。 ■故実 昔からのならわし。

メモ

■前段から一変して考証的章段。

朗読・解説:左大臣光永

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