【絵合 04】斎宮の女御、参内 冷泉帝、斎宮の女御とならび弘徽殿の女御と親しむ 権中納言、不安がる

中宮も内裏《うち》にぞおはしましける。上は、めづらしき人参りたまふと聞こしめしければ、いとうつくしう御心づかひしておはします。ほどよりはいみじうざれ大人びたまへり。宮も、「かく恥づかしき人参りたまふを、御心づかひして、見えたてまつらせたまへ」と聞こえたまひけり。人知れず、大人は恥づかしうやあらむと思しけるを、いたう夜更けて参《ま》う上《のぼ》りたまへり。いとつつましげにおほどかにて、ささやかにあえかなるけはひのしたまへれば、いとをかし、と思しけり。

弘徽殿《こきでん》には御覧じつきたれば、睦ましうあはれに心やすく思ほし、これは人ざまもいたうしめり恥づかしげに、大臣の御もてなしもやむごとなくよそほしければ、あなづりにくく思されて、御|宿直《とのゐ》などは等しくしたまへど、うちとけたる御|童遊《わらはあそ》びに、昼など渡らせたまふことは、あなたがちにおはします。権中納言は、思ふ心ありて聞こえたまひけるに、かく参りたまひて、御むすめにきしろふさまにてさぶらひたまふを、かたがたに安からず思すべし。

現代語訳

中宮(藤壺)も宮中においでになった。帝は、とても素晴らしい方が入内なさるとお聞きになっていらしたので、とてもいじらしく御心遣いしていらっしゃる。

帝は、御年よりはたいそう世慣れて大人びていらっしゃる。母宮(藤壺)も、「こう、こちらが気後れするほど素晴らしい方が参内なさるのですから、御心遣いして、ご対面なさいませ」と申し上げなさるのだった。帝は人知れず、「年上の方はこちらが恥ずかしい思いがするだろう」と思っておられたところ、斎宮の女御は、たいそう夜が更けて参上なさった。

とても奥ゆかしく大らかで、小柄できゃしゃな感じでいらっしゃるので、帝は「とても素晴らしい」とお思いになるのであった。

弘徽殿の女御にはたびたびお逢いになっていらっしゃるので、親しみ深く打ち解けて安心できる御方とお思いになり、一方斎宮の女御は、御気性もたいそう落ち着いていて、こちらが気後れするほどで、源氏の大臣の御扱いもご丁重でものものしいので、無下に扱うこともできぬとお思いになり、御宿直などは御二方、等しくなさるが、うちとけた子供っぽい遊び相手として、昼などおいでなさることは、あちらの弘徽殿の女御のほうがしばしばでいらっしゃる。

権中納言は、思う心があって娘の入内をお願い申し上げたのだが、こうして中宮の女御が参内なさって、御むすめと競い合うようすでお仕えになっていらっしゃるのを、あれこれ心安からずお思いになっていらっしゃるようである。

語句

■中宮 藤壺。三条宮から参内した。冷泉帝にはまだ中宮がいないので、あえて以前の呼称である中宮とよぶ。 ■めずらしき人 並々ならず素晴らしい人。前斎宮のこと。以下、斎宮の女御とよぶ。 ■ざれ 「ざる」は世慣れている、気が利く。 ■大人は 斎宮の女御は冷泉帝より九歳年上。 ■あえかなる 「あえかなり」はいかにも弱々しい。きゃしゃだ。 ■弘徽殿 弘徽殿女御。権中納言の娘。権中納言は昔の頭中将。二年前の八月に入内(【澪標 11】【澪標 17】)。 ■これは 斎宮の女御。 ■しめり 「しめる」はひっそりと落ち着くこと。 ■よそほしければ 「よそほし」は威儀を調えていかめしいこと。 ■あなたがちに 「あなた」は弘徽殿女御。あっちの弘徽殿女御のほうが訪問の頻度が高いというのである。 ■思ふ心 将来は弘徽殿女御を冷泉帝の中宮にとひそかに思っている。 ■きしろふ 競い合う。弘徽殿女御と斎宮女御それぞれの後見人として、権中納言と源氏が権力を争う図が出来つつある。

朗読・解説:左大臣光永

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