【松風 01】東の院完成 花散里はじめ方々を移り住ませる

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原文

東《ひむがし》の院造りたてて、花散里《はなちるさと》と聞こえし、移ろはしたまふ。西の対、渡殿《わたどの》などかけて、政所《まどころ》家司《けいし》など、あるべきさまにしおかせたまふ。東《ひむがし》の対《たい》は、明石の御方と思しおきてたり。北の対は、ことに広く造らせたまひて、かりにてもあはれと思して、行く末かけて契り頼めたまひし人々集ひ住むべきさまに、隔て隔てしつらはせたまへるしも、なつかしう見どころありて、こまかなり。寝殿は塞《ふた》げたまはず、時々渡りたまふ御住み所《どころ》にして、さる方なる御しつらひどもしおかせたまへり。

現代語訳

東の院を建造してから、花散里と申し上げた御方をお移らせになる。西の対から渡殿などをにかけて、政所を設け、そこで働く職員をしかるべきように任じてお置きになる。東の対は、明石の御方と決めておられる。北の対はとくに広くお造りになって、かりそめにも御心をかけて、将来まで約束をしてこちらを頼みに思わせなさった人々を集めて住むべきありさまに、部屋部屋を仕切って造営させなさるのが、好ましく見事であって、こまごまと御心が行き届いた造りである。寝殿は空けておかれて、時々おいでになる時の御座所にして、それにふさわしい御調度品などもお整えになる。

語句

■東の院 源氏が前々から二条院の東隣に造営中であった御殿(【澪標 04】)。 ■造りたてて 「造りはてて」とする本も。 ■花散里 麗景殿女御の妹。花散里巻にはじめて登場。「橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ」の歌による(【花散里 03】)。 ■政所 貴族の家の家政を取り仕切る部署。 ■かりにもあはれと思して 源氏がかりそめにも情をかわした相手。空蝉・末摘花・五節など。 ■頼めたまひし 「頼む」は頼みにさせる。 ■隔て隔て 大部屋を仕切って多数の局を作った。

朗読・解説:左大臣光永

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