源氏物語の現代語訳つくってます 明石

こんにちは。左大臣光永です。『源氏物語』の現代語訳をつくっています。第十三巻「明石」まで終わりました。

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明石巻について

明石巻は、光源氏が、明石の入道のみちびきで須磨から明石にうつり、明石の君と運命的な出会いをする。それから都の情勢がかわって光源氏が都によびもどされるまでが描かれます。

明石巻は訳してて辛かったです。くどいのです。直前の須磨巻は文章が美しく、優雅で、テンポがいいので、訳していてとても楽しかったですが、、明石巻はくどい。あと四段前の葵巻も、文章がくどくて、つらかったです。

どこにちがいがあるかというと、メインとなる登場人物の、性格ですね。

六条御息所がメインとなる葵巻などは、くどくどくどくど…御息所が悩みまくるので、わーーーと暗黒宇宙に引きずり込まれるように、話が暗く、重く、深刻になります。

ただでさえ読みづらい『源氏物語』の文章が、さらに読みづらくなります。

光源氏について

いっぽう須磨巻は、光源氏がメインで話がすすむので、さっぱりした清涼感すらただよいます。…こう、源氏の性格は一本筋が通ってるじゃないですか。

光源氏という人物について、よく誤解があって、女を取っかえひっかえ、女たらしだ。まったく破廉恥でけしからんと。

しかし私はこの見方は、ちがうと思うんですよ。

それは三段前の賢木巻に、右大臣家というのが光源氏の政治上の敵で、光源氏をひどく嫌っていて、なんとか失脚させようと画策しているわけですが、

あろうことか、源氏は、その右大臣家の娘の朧月夜の君と、いい関係になって、お楽しみ中のところに、朧月夜の父君である右大臣が入り込んできて、

「なんたることだ!けしからん!」と修羅場になる。これがもとで光源氏は失脚して須磨に下ることになるわけですが、その時、光源氏は少しもひるまず、寝床に体を横たえたまま、扇をゆったりと顔にかざしつつ、

そちらこそ何だ。たとえ親であっても、男女がもののあはれを交わし合っている閨の内に、ずかずか上がり込むとは何事か。あまりに風流をわきまえぬ、無粋なことではないか、

と、そういう台詞は本文中にはないですが、光源氏の堂々たる態度のうちには、そういう考えがあると思うのですよ。

私はこの場面がとても好きで、一本筋が通っている!性根がすわっている!と、たいへん共感しますね。

単なる浮気性とは一線を画する、人の情というものを、とくに女性と通わせる情というものを、もののあはれを、命がけでつらぬき、人生の根本主題においている、すっと一本筋が通った、立派な男だと思いますよ光源氏は。男からみても、光源氏はすばらしい。

明石の君について

そんな光源氏をメインにすえた須磨巻は、だからさくさくテンポよく話がすすむし、文章も優雅で、須磨巻は源氏物語中の白眉といわれています。

ところが須磨から明石に移って、明石の君という女性が出てくると…明石の君はまた六条御息所とはちがう方向で、クドクドクドクド悩むわけですよ。

「こんな身分の低い私なんかが、光の君にふさわしくないわ。こんな不幸にしずんでいるのも、すべて私の前世からの運命のつたなさから出ていることで、ぜんぶ私が悪いのだから、でもあの御方に心惹かれるのを抑えられない、けれども…」くどくどくどくど自分を卑下しまくるので、うっとうしいわお前!ガツーンと行けと、言いたくなりますね。

私はこういう人物はニガテです。

私は光源氏や頭の中将、紫の上といった自己肯定感が強く、さわやかで、行動力のある人物が好きです。そのほうが話もサクサクとテンポよくすすみますからね。

明石入道について

ただ明石巻ですばらしいと思うのは、私は明石の君はあまり好きではないですが、明石の君の父君の、明石の入道。このジイさんは、頑固で偏屈者で、娘がのぞみ通り都の貴公子と結婚できないんだったら、私が死んだ後はお前、海に身を投げてしまえと常々言っている爺さんですが、筋が通った一徹者というか。

それでいて、奥さんに怒られて、「こんなことになったのは貴方みたいな偏屈者についてきたからです!残念です!」と言われて、いじけてしまって、しゅんと部屋の隅にちぢこまってしまう。

奥さんはじめ、お仕えしている侍女たちが、ほんとにあの方は偏屈で困ったものねなんて言い合っている、

入道は出家しているので仏弟子がいるわけですが、その弟子たちからも疎んじられて、家に居場所がなくなって、夜ぶらぶらと庭を歩いていると、遣水の中にぼちゃーんと落ちて、腰をいためてケガをするといった、かわらしいところが見えて、私は、明石の君はクドクドうっとうしくてニガテですが、お父さんの明石の入道の偏屈な中にもかわいらしさのただよう人柄は、好きです。

旅ごろもうらがなしさにあかしかね草の枕は夢もむすばず。

(旅衣を着ていることのうら悲しさに眠ることができず、夜がなかなか明けず、おちおち夢を見ることもできません)

朗読・解説:左大臣光永