第二百二段 竹谷乗願房

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竹谷乗願房(たけだにのじょうがんぼう)、東二条院(とうにじょうのいん)へ参られたりけるに、「亡者の追善には、何事か勝利多き」と尋ねさせ給ひければ、「光明真言(こうみょうしんごん)・宝篋院陀羅尼(ほうきょういんだらに)」と申されたりけるを、弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。念仏にまさる事さぶらふまじとは、など申し給はぬぞ」と申しければ、「我が宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、まさしく、称名を追福(ついふく)に修(しゅ)して巨益(きょやく)あるべしと説ける経文を見及ばねば、何に見えたるぞと重ねて問はせ給はば、いかが申さんと思ひて、本経(ほんぎょう)の確かなるにつきて、この真言・陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。

口語訳

(法然上人の弟子である)竹谷乗願房が、東二条院のお屋敷へ参られた時、「亡くなった方の供養には、何をするのが利益が多いか」とお尋ねになったので、「光明真言(こうみょうしんごん)・宝篋院陀羅尼(ほうきょういんだらに)」と申されたのを、、弟子たちが、「どうしてそのようにお申上げになったのですか。念仏にまさる事はございませんとは、どうしてお申上げにならなかったのですか」と申したので、「我が浄土宗のことなので、そう申し上げたかったが、はっきりと称名を供養に行って莫大な利益があると説いている経文を見かけないので、何の経文に見えるぞと重ねてご質問になられたので、どう申し上げようと思って、根拠となる確実な経文に基づいて、この真言・陀羅尼を申したのだ」と申された。

語句

■竹谷乗願房 法然の弟子。諱(いみな)は宗源。権中納言藤原長方の子。最初真言密教を学んだが後に浄土宗に転じた。京都市醍醐の竹谷に隠棲し竹谷上人と呼ばれた。 ■東二条院 後深草天皇の中宮公子。西園寺実氏の娘。 ■追善 供養。 ■勝利 利益。 ■光明真言 真言密教で唱える陀羅尼(真言)の一つ。『光明真言経』に説かれている。これを唱えると仏の光明を得て罪が浄化されるという。 ■宝篋院陀羅尼 『宝篋院陀羅尼経』に説かれる陀羅尼。 ■我が宗 浄土宗。 ■称名 阿弥陀仏の御名を唱えること。念仏。 ■追福 追善に同じ。 ■巨益 莫大なご利益。 ■本経の確かなる 根拠となる確実な経文。「の」は同格。 ■つきて 基づいて。

メモ

■専修念仏

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音声つきで法然の生涯を解説しています。

朗読・解説:左大臣光永

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