【幻 16】五節に世のはなやぐ頃、無為に日を暮らす

五節《ごせち》などいひて、世の中そこはかとなくいまめかしげなるころ、大将殿の君たち、童殿上《わらはてんじやう》したまひて参りたまへり。同じほどにて、二人《ふたり》いとうつくしきさまなり。御|叔父《をじ》の頭中将、蔵人少将など小忌《をみ》にて、青摺《あをずり》の姿ども、清げにめやすくて、みなうちつづきもてかしづきつつ、もろともに参りたまふ。思ふことなげなるさまどもを見たまふに、いにしへあやしかりし日蔭《ひかげ》のをり、さすがに思し出でらるべし。

みや人は豊《とよ》の明《あかり》にいそぐ今日ひかげも知らで暮らしつるかな

現代語訳

五節などといって、世の中がなんとなく華やいている頃、大将殿の君たちが童殿上なさって院(源氏)のもとにおいでになった。同じ時期に童殿上して、二人はまことにおかわいらしい様子である。御叔父の頭中将、蔵人少将などが新嘗祭の神事に携わり、それぞれ青摺の姿が、さっぱりして見映えがして、みな連れ立って二人の世話をしつつ、ご一緒においでになる。院(源氏)は、彼らの何の悩みもなさそうなさまを御覧になるにつけ、昔、風情のある日陰の鬘をつけて舞ったの折のことがやはり思い出されるのだろう。

(源氏)みや人は……

(宮中にかかわる人々は豊明の節会へと急ぐ今日、私は日の光も知らずに引きこもって一日を過ごすことだよ)

語句

■五節 新嘗祭・大嘗祭に行われる女楽。十一月の中の丑の日舞姫参入。帳台の試、寅の日殿上の淵酔、御前の試、卯の日(新嘗祭)童女御覧、辰の日豊明の節会に舞姫が舞う。大嘗祭には五人、新嘗祭には四人出す(『平家物語』殿上闇討小倉百人一首十ニ番)。 ■童殿上 名家の子が主に作法見習いのため幼くして殿上すること。またその子。 ■御叔父の 夕霧の妻雲居雁の兄弟たち。 ■小忌 官人が新嘗祭・大嘗祭の神事に携わること。 ■あやしかりし 源氏が新嘗祭の日に五節の舞姫と逢ったこと。この話は断片的にあちこちで語られるのみ(【花散里 02】【須磨 16】【明石 21】)など。

朗読・解説:左大臣光永