古事記(二)神の結婚

こんにちは。左大臣光永です。

昨夜、奈良の三条通りや猿沢池のほとりをぶらぶら歩いてきました。満月にちょっと足りないやや欠けた月でしたが、猿沢池の水面に月が映りこみ、興福寺の五重塔も映り込み、ゆらゆら揺れている。それをぼさーーと眺めながら池を一周して、いい気分でした。明月や池をめぐりて夜もすがら。芭蕉の句の風情も胸に迫りました。

さて先日再発売しました「語り継ぐ 日本神話」
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ご好評をいただいております。ありがとうございます。

しばらくこの商品にあわせて、『古事記』の本文(書き下し)を皆様とご一緒に読んでいきます。

本日は第二回「神の結婚」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

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前回は、この世界にはじめてあらわれた神々についてでした。天之御中主神《あめのみなかぬしのかみ》。高御産日神《たかみむすひのかみ》。神産巣日神《かむむすひのかみ》はじめ、多くの神々があらわれました。そしてついに、イザナキ・イザナミの登場となりました。

そこで天のもろもろの神々は、イザナキ・イザナミに命じます。この国をしっかりと整え固めなさいと。

是《ここ》に、天《あま》つ神諸《もろもろ》の命以《みこともち》て、伊耶那岐命《いざなぎのみこと》・伊耶那美命《いざなみのみこと》のニ柱《ふたはしら》の神に詔《のりたま》はく、

「是《こ》のただよへる国を修理《つくろ》ひ固め成せ」とのりたまひ、天《あま》つ沼矛《ぬほこ》を賜ひて、言依《ことよ》せ賜《たま》ひき。

故《かれ》、ニ柱《ふたはしら》の神、天《あめ》の浮橋《うきはし》に立たして、其《そ》の沼矛《ぬほこ》を指し下して描《えが》けば、塩こをろこをろに描き鳴して、引き上げし時に、其の矛の末より垂《したた》り落ちし塩の、累《かさな》り積りて島と成りき。是《これ》、淤能碁呂島《おのごろじま》なり。

そこで天つ神(高天原の神々)である多くの神々が、伊耶那岐命《いざなぎのみこと》・伊耶那美命《いざなみのみこと》のニ柱《ふたはしら》の神におっしゃることに、

「この漂っている(不安定な状態の)国をしっかり整え固めよ」

そう言って神々は伊耶那岐・伊耶那美に「天《あま》つ沼矛《ぬほこ》」…玉飾りのついた矛をお授けになって命じられた。

そこで、二柱の神が天の浮橋にお立ちになって、その沼矛(ぬほこ)を指し下ろしてかきまわした所、潮をころころとかきならして、引き上げた時に、その矛の埼から滴り落ちた潮は、重なり積もって島となった。これが、オノゴロ島である。

………

「天の浮橋」というものがどんなものか具体的にはわかりませんが、空中に渡された橋か、ハシゴのようにイメージされることが多いようです。その、天の浮橋の上から、すーーっと天の沼矛をつきさして、すくい上げたら雫がぽたぽた落ちて、それがオノゴロ島になった、という話です。

↓↓続きです↓↓

其《そ》の島に天降《あまくだ》り坐して、天《あめ》の御柱《みはしら》を見立て、八尋殿《やひろどの》を見立つ。是《ここ》に、其《そ》の妹《いも》伊耶那美命《いざなみのみこと》に問ひて曰《い》ひしく、

「汝《なんぢ》が身は、如何にか成れる」

答へて白《もー》ししく、

「吾が身は、成り成りて成り合わぬ処《ところ》一処《ひとところ》あり」。

爾《しか》くして、伊耶那岐命《いざなぎのみこと》、

「吾が身は、成り成りて余れる処《ところ》一処《ひとところ》在り。故《かれ》、此《こ》の吾《あ》が身の成り余れる処をもって、汝が身の成り合わぬ処を刺し塞ぎ、国土を生み成さんと以為《おも》ふ。生むは、奈何《いかん》」

爾《しか》くして、伊耶那美命《いざなみのみこと》の詔《のりたま》ひしく、

「然《しか》なれば、善《よ》し」

爾《しか》くして、伊耶那岐命《いざなぎのみこと》の詔《のりたま》ひしく、

「然《しか》らば、吾《あれ》と汝《なむぢ》と、是《こ》の天《あめ》の御柱《みはしら》を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひを為む」

如此期《かくちぎ》りて、乃《すなは》ち詔《のりたま》ひしく、

「汝《なむぢ》は右より廻り逢へ。我は左より廻り逢はむ」

天の御柱
天の御柱

約《ちぎ》り竟《おは》りて廻りし時に、伊耶那美命《いざなみのみこと》の先づ言はく、

「あなにやし、えをとこを」

後に伊耶那岐命《いざなぎのみこと》の言ひしく、

「あなにやし、えをとめを」

各《おのおの》言ひ竟《おは》りし後に、其の妹《いも》に告《の》らして曰《い》ひしく、

「女人《おみな》の先《ま》づ言ひつるは、良からず」

然れども、くみどに興して生みし子は、水蛭子《ひるこ》。此《こ》の子は、葦船《あしぶね》に入れて流し去りき。次に、淡島《あわしま》を生みき。是《これ》も亦 《また》、子の例には入れず。

是《ここ》に、ニ柱《ふたはしら》の神の議《はか》りて伝《い》はく、「今吾《いまわ》が生む所の子、良からず。猶《なお》天《あま》つ神の御所《みもと》に白《もー》すべし」といひて、即ち共に参《ま》ゐ上り、天つ神の命《みこと》を請《こ》ひき。爾《しか》くして、天つ神の命《みこと》以て、ふとまにに卜相《うらな》ひて詔《のりたま》ひしく、「女の先づ言ひしに因《よ》りて、良からず。亦《また》、還り降《くだ》りて改めて言へ」

故《かれ》爾《しか》くして、返り降りて、更に其の天《あめ》の御柱を往き廻ること、先の如し。

その島…オノゴロ島にイザナキ・イザナミは天降って、天の御柱を見出し、八尋殿…八尋の高さのある御殿を見出した。

そこで、イザナキが妻イザナミに尋ねて言うことに、

「お前の体は、どのように出来ているか」

妻イザナミが答えて言うことに、

「私の身は、すっかり整って、でも欠けている部分が一か所あります」

そこでイザナキがおっしゃることに、

「私の身は、すっかり整って、余っている部分が一か所ある。
そこで、私の身の余っている部分で、お前の身の欠けている部分を
刺し塞いで、国を生もうと思う。どうか」

妻イザナミが答えて

「はい。よいです」

そこで、イザナキのおっしゃることに、

「では、私とお前と、この天の御柱を行き廻って、出逢ったところで、寝所での交わりをしよう」

天の御柱
天の御柱

このように約束して、すぐにイザナキがおっしゃることに、

「お前は右から廻って私と出会え。私は左から廻ってお前に会おう」

こう約束して、柱を廻った時に、イザナミがまず言った。

「ああ、なんて素晴らしい殿方でしょう」

次にイザナキが言った。

「ああ、なんと愛しい乙女だろう」

おのおの言い終わった後、イザナキが妻イザナミに仰せになった。

「女が最初に発言したのは、よくない」

そうはいいながらも、くみど…婚姻の場所で夫婦の営みをして、生んだ子は、水蛭子(ひるこ)。

この子は、葦船に入れて、水に流しやった。

次に、淡島を生んだ。これもまた、子の数には入れない。

ここに、二柱の神…イザナキ・イザナミは相談して言うことに、

「今私が生んだ子は、よくない。やはり天つ神のみもとに参上して、このことを申し上げるべきだ」

そう言って、すぐに一緒に参上し、天つ神の命令を求めた。

そこで、天つ神は「ふとまに」(古代の占い。鹿の骨を焼いて、そのヒビの入り方で物事を占う)で占っておっしゃった。

「女が先に発言したから、良くない結果になったのだ。また、返り下って、言い改めよ」

それで、二人はオノゴロ島に返り下って、ふたたびその天の御柱を前のように行き廻った。

そこで、イザナキノミコトがまず言った。

「ああ、なんと愛しい乙女だろう」

その後、イザナミノミコトが言った。

「ああ、なんて素晴らしい殿方でしょう」

……

と、こうして結婚の儀式を正しく行ったことにより、子供が次々と生まれてくるわけです。それにしてもヒドいこと書いてありますね。最初に生まれた水蛭子《ひるこ》は葦船に入れて流した。次の淡島《あわしま》も子の数には数えられないと。

水蛭子は骨がなく、淡島はその名の通りあわあわ(ふにゃふにゃ)して、ようは未熟児だったようです。

う~ん…蛭子と淡島はその後、どうなっちゃったんでしょうか。こういう重要なことを一切説明なしでサラッと流してるのが、スゴイです。

女が先に発言したからよくない。男から先に発言するのが正しいのだというのも…現在ならフェミニスト団体のオバチャンたちがな、な、なにを言ってるザマス!女性差別ザマス!顔真っ赤にして怒り狂いそうです。

明日は「国生み」です。お楽しみに。

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上巻「神代(かみよ)篇」は
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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

朗読・解説:左大臣光永
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