古事記(三)国生み

こんにちは。左大臣光永です。

8月に京都に引っ越してきた時、近所の商店街の店店がぜんっぜん営業してなくて、うわ~シャッター商店街だと思ってたんですが、9月1日になったら、ほとんどの店が開きました。なんと8月いっぱい夏休みだったんですね。9月のはじめから商売を再開するという仕組みでした。のんびりしたことだな~と感心しました。

さて先日再発売しました「語り継ぐ 日本神話」
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ご好評をいただいております。ありがとうございます。

しばらくこの商品にあわせて、『古事記』の本文(書き下し)を皆様とご一緒に読んでいきます。

本日は第三回「国生み」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

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前回は、イザナキ・イザナミ夫婦がオノゴロ島で夫婦の契をする話でした。

イザナキ・イザナミ夫婦が結婚の儀式をした後、子を生んだが、最初に生まれてきたヒルコは水に流した。次に生まれてきたアワシマは子の数に入れなかった。

どうやら両方とも未熟児だったようです。

そこでイザナキ・イザナミ夫婦はどうしてこんなことになったんだと、高天原の神々に相談したところ、結婚の儀式で女が先に発言したのが悪かったのだと。それで再びオノゴロ島に戻って、結婚の儀式を正しくやり直した所まででした。

前回からの続きです。日本列島のもとになる、島々を生む場面です。
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如此《かく》言ひ竟《おわ》りて御合《みあい》して、生みし子は、淡道之穂之狭別島《あわぢのほのさわけのしま》。次に、伊予之二名島《いよのふたなのしま》。

此《この》島は、身一つにして面《おもて》四つあり。面ごとに名あり。故《かれ》、伊予国《いよのくに》は愛比売《えひめ》と謂ふ。讃岐国《さぬきのくに》飯依比古《いひよりひこ》と謂ふ。粟国《あわのくに》は大宣都比売《おほげつひめ》と謂ふ。土佐国《とさのくに》は建依別《たけよりわけ》と謂ふ。

次に、隠伎三子島《おきのみつごのしま》を生みき。またの名を、天之忍許呂別《あめのおしころわけ》。次に、筑紫島《つくしのしま》を生みき。此島もまた、身一つに面《おもて》四つあり。

面ごとに名あり。故《かれ》、筑紫国は白日別《しらひわけ》と謂ひ、豊国《とよくに》は豊日別《とよひわけ》と謂ふ。肥国《ひのくに》は建日向日豊久士比泥別《たけひむかひとよくじひねわけ》と謂ふ。

熊曾国《くまそのくに》は建日別《たけひわけ》と謂ふ。次に、伊岐島《いきのしま》を生みき。亦の名を、天比登都柱《あまひとつはしら》と謂ふ。次に、津島《つしま》を生みき。亦の名を、天之狭手依比売《あめのさでよりひめ》と謂ふ。

……

(…このように言い終わって)イザナキとイザナミが結婚して、生んだ子は、淡道之穂之狭別島《あわぢのほのさわけのしま》=淡路島。次に、伊予之二名島《いよのふたなのしま》=四国。

この島は体は一つだが顔が四つあった。顔ごとに名前があった。そのうち、伊予国《いよのくに》は愛比売《えひめ》という。讃岐国《さぬきのくに》飯依比古《いひよりひこ》という。粟国《あわのくに》は大宣都比売《おほげつひめ》という。土佐国《とさのくに》は建依別《たけよりわけ》という。

次に隠伎三子島《おきのみつごのしま》を生んだ。またの名を、天之忍許呂別《あめのおしころわけ》。

次に、筑紫島《つくしのしま》=九州を生んだ。この島もまた、身一つに顔が四つあった。

顔ごとに名前があった。そのうち、筑紫国は白日別《しらひわけ》といい、豊国《とよくに》は豊日別《とよひわけ》という。肥国《ひのくに》は建日向日豊久士比泥別《むかひとよくじひねわけ》という。

熊曾国《くまそのくに》は建日別《たけひわけ》と謂ふ……

こんな感じで、日本列島の基礎となる島をどんどん生んでいきます。島の名前がずらーっと列挙してあり、キリが無いので中略します。

続きです。おおかた国を生み終わると、次は神を生みます。
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既に国を生むこと竟《おわ》りて、更に神を生みき。

故《かれ》、生みし神の名は、大事忍男神《おおことおしおのかみ》。次に、石土毘古神《いわつちびこのかみ》。次に、石巣比売神《いわすひめのかみ》。次に、大戸日別神《おおとひわけのかみ》。

次に、天之吹男神《あめのふきおのかみ》。次に、大屋毘古神《おおやびこのかみ》。次に、風木津別之忍男神《かざもくつわけのおしをのかみ》。次に、海の神。名は大綿津見神《おおわたつみのかみ》。

次に、水戸《みなと》の神、なは速秋津日子神《はやあきつひこのかみ》。次に、妹早秋津比売神《いもはやあきつひめのかみ》。

……

生んだ神の名は、大事忍男神《おおことおしおのかみ》。次に、石土毘古神《いわつちびこのかみ》。次に、石巣比売神《いわすひめのかみ》。次に、大戸日別神《おおとひわけのかみ》。

次に、天之吹男神《あめのふきおのかみ》。次に、大屋毘古神《おおやびこのかみ》。次に、風木津別之忍男神《かざもくつわけのおしをのかみ》。

次に、海の神。名は大綿津見神《おおわたつみのかみ》。次に、水戸《みなと》の神、なは速秋津日子神《はやあきつひこのかみ》。次に、妹早秋津比売神《いもはやあきつひめのかみ》

こんな感じで、神々の名前が列挙されます。ここもキリが無いので中略しますが、風の神、木の神、山の神、野の神など、次々生まれてきます。最後に生まれてきたのが火之迦具土神《ひのかぐつちのかみ》。略してカグツチです。
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次に生みしは火之夜芸速男神《ひのやぎはやおのかみ》。亦の名を、火之炫毘古神《ひのかかびこのかみ》と謂ふ。亦の名を、火之迦具土神《ひのかぐつちのかみ》と謂ふ。此《こ》の子を生みしに因りて、みほとを炙かえて病みて臥してあり。

たぐりに成りし神の名は、金山毘古神《かなやまびこのかみ》。次に、金山毘売神《かねやまびめのかみ》。次に、屎《くそ》に成りし神の名は、波邇夜須毘古神《はにやすびこのかみ》。

次に、波邇夜須毘売神《はにやすびめのかみ》。次に、尿に成りし神の名は、弥都波能売神《やつはのめのかみ》。

次に、和久産巣日神《わくむすひのかみ》。此《こ》の神の子は、豊宇気毘売神《とようけびめのかみ》と謂ふ。故《かれ》、伊耶那美神《いざなのみかみ》は、火の神を生みしに因って、遂に神避《かむさ》り坐しき。

……

次に生んだのはヒノカグツチである。

このカグツチを生んだ時に、母イザナミは陰部を焼かれて病の床についた。そしてその、吐瀉物の中からも神々が成った。今度はウンチからも神々が成った。次におしっこからも神々が成った。

そしてイザナミノカミは、火の神カグツチを生んだことによって陰部を焼かれて、ついに神避《かむさ》られた。

……「神避《かむさ》る」は「死んだ」と訳したいところですが、この後の『古事記』の展開を見ると神には死という概念があるような無いような…あやふやな感じですから、「神避《かむさ》る」は「遠い黄泉の国へ行ってしまった」「お隠れになった」くらいに取っておきます。

続きです。妻イザナミを失ったイザナキは嘆き悲みとんでもない行動に出ます。
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故《かれ》爾《しか》くして、伊邪那岐命《いざなぎのみこと》の詔《のりたま》はく、

「愛《うつく》しき我がなに妹《も》の命《みこと》や。子の一つ木に易《かえ》ようと謂ふや」

乃ち御枕《みまくら》の方へ匍匐《はらば》ひて御足《みあし》の方へ匍匐《はらば》ひて哭きし時に、御涙《みなみた》に成れる神は、香山《かぐやま》の畝尾《うねお》の木本《このもと》に坐《いま》す、名は、泣沢女神《なきさわめのかみ》ぞ。

故《かれ》、其《そ》の、神避《かむさ》れる伊耶那美神《いざなみのかみ》は、出雲国《いずものくに》と伯伎国《ははきのくに》の堺、比婆之山《ひばのやま》に葬《はぶ》りき。

是《ここ》に、伊邪那岐命《いざなぎのみこと》、御佩《みは》かしせる十拳《とつか》の剣を抜きて、其子《そのこ》迦具土神《かぐつちのかみ》の頸《くび》を斬る。

爾《しか》くして、其の御刀《みはかし》の前に著《つ》ける血は、湯津石村《ゆついわむら》に走り就《つ》きて、成れる神の名は、石析神《いはさくのかみ》。次に、根析神《ねさくのかみ》。次に、石箇之男神《いはつつのおのかみ》。

次に、御刀《みはかし》の本《もと》に著《つ》ける血も亦、湯津石村《ゆついわむら》に走り就《つ》きて、成れる神の名は、甕速日神《みかはやひのかみ》。

次に、樋速日神《ひはやひのかみ》。次に、建御雷之男神《たけみかづちのおのかみ》。亦の名は、建布都神《たけふつのかみ》。亦の名は、豊布都神《とよふつのかみ》。

次に、御刀《みはかし》の手上《たかみ》に集まりし血は、手俣《たなまた》より漏れ出でて、成れる神の名は、闇淤加美神《くらおかみのかみ》。次に、闇御津羽神《くらみつはのかみ》。

上《かみ》の件《くだり》の、石析神《いはさくのかみ》より以下、闇御津羽神《くらみつはのかみ》以前、あわせて八はしらの神は、御刀《みはかし》に因りて生める神なり。

殺《ころ》さえし迦具土神《かぐつちのかみ》の頭に成れる神の名は、正鹿山津見神《まさかやまつみのかみ》。次に、胸に成れる神の名は、淤縢山津見神《おどやまつみのかみ》。次に、腹に成れる神の名は、奥山津見神《おくやまつみのかみ》。次に、陰《はぜ》に成れる神の名は、闇山津見神《くらやまつみのかみ》。次に、左手に成れる神の名は、志芸山津見神《しぎやまつみのかみ》。

次に、右手に成れる神の名は、羽山津見神《はやまづみのかみ》。次に、左足に成れる神の名は、原山津見神《はやまつみのかみ》。次に、右足に成れる神の名は、戸山津見神《とやまつみのかみ》。

正鹿山津見神《まさかやまつみのかみ》より戸山津見神《とやまつみのかみ》に至るまで、あわせて八つはしらの神ぞ。故《かれ》、斬る刀《たち》の名は、天之尾羽張《あめのをはばり》と謂ふ。亦の名を、伊都之尾羽張《いつのおはばり》と謂ふ。

さてそこでイザナキノミコトがおっしゃった。

「愛しいわが妻の命《みこと》よ、お前は自分の命を子一人に変えようというのか」

そう言って、そのまま枕元に腹這い、足元に腹這いになって泣いた時に、その涙に成った神は、香山《かぐやま》の畝尾《うねお》の木本《このもと》に鎮座まします、名は、泣沢女神《なきさわめのかみ》。

さて、神避《かむさ》ったイザナミノカミは、出雲国と伯耆国との間にある比婆之山《ひばのやま》に葬った。

そこで、イザナキノミコトは、腰に佩いていた十拳の剣を抜いて、その子カグツチの首を斬った。

こうして、その刃の切っ先に着いた血が、湯津岩村(ゆついわむら。神聖な岩の群れ)に飛び散って、成った神の名は石析神《いはさくのかみ》。次に、根析神《ねさくのかみ》。次に、石箇之男神《いはつつのおのかみ》。

次に、刀の元(鍔)についた血もまた、神聖な石の群れに飛び散って、成った神の名は、甕速日神《みかはやひのかみ》。次に、樋速日神《ひはやひのかみ》。

次に、建御雷之男神《たけみかづちのおのかみ》。亦の名は、建布都神《たけふつのかみ》。亦の名は、豊布都神《とよふつのかみ》。

次に、刀の柄に集まった血が、指の間より漏れ出して、成った神の名は、闇淤加美神《くらおかみのかみ》。次に、闇御津羽神《くらみつはのかみ》。

殺されたカグツチノカミの頭に成った神は、正鹿山津見神《まさかやまつみのかみ》。次に、胸に成った神の名は、淤縢山津見神《おどやまつみのかみ》。次に、腹に成った神の名は、奥山津見神《おくやまつみのかみ》。次に、男性器に成った神の名は、闇山津見神《くらやまつみのかみ》。

次に、左手に成った神の名は、志芸山津見神《しぎやまつみのかみ》。次に、右手に成った神の名は、羽山津見神《はやまづみのかみ》。

次に、左足に成った神の名は、原山津見神《はやまつみのかみ》。次に、右足に成った神の名は、戸山津見神《とやまつみのかみ》。正鹿山津見神《まさかやまつみのかみ》より戸山津見神《とやまつみのかみ》に至るまで、あわせて八つはしらの神ぞ。故《かれ》、斬る刀《たち》の名は、天之尾羽張《あめのをはばり》と謂ふ。亦の名を、伊都之尾羽張《いつのおはばり》と謂ふ。

その、斬った刀の名は天之尾羽張《あめのをはばり》という。亦の名を、伊都之尾羽張《いつのおはばり》という。

………

うーん…怒涛の展開ですね。イザナミから次々と子供が生まれてきて、最後に生まれてきた火の神・カグツチによって、イザナミは陰部を焼かれてお隠れになった。イザナキは一人残され、嘆き悲しむ。

わが妻よなぜだ。たった一人の子にお前の命を替えてしまうなんて。そこを、生まれたばかりのカグツチがキャッキャと無邪気に駆け回っていたかもしれない。

イザナキ、イライラする。

お前が!お前のせいで妻は!!

ズバーー!!

首をはねる!!

生まれたばかりの、わが子の、首をです!!

ぱあーーっと飛び散る鮮血。

その飛び散った血が石にふりかかって、そこからもいろいろ神々が生まれてきた。

そして殺されたカグツチの死体からも、いろいろな神々が生まれてきた。

最後に「アメノオハバリ」またの名を「イツノオハバリ」と、剣の名前が出てきますね。イザナキがわが子カグツチを殺害した剣です。この剣は剣でありながら同時に神でもあります。ずっと後の葦原中国の平定の段で、ふたたび登場します。

次回、「黄泉の国」に続きます。お楽しみに。

追伸

先日、新京極の映画館で『関ヶ原』みてきました。3時間ぜんぜん退屈しませんでした。話は司馬遼太郎さんの原作にだいたい、そのままだと思います。といっても原作読んだのがもう20年以上昔なので、よう覚えとらんですが。

とにかく島左近がカッコいい。石田三成が純真でまっすぐである。福島正則は昭和のヤンキーっていうか場末のチンピラって感じ。やたら感情の起伏の激しい徳川家康も新鮮でした。

お寧さんの京都弁は歯切れがよく、秀吉の育ち悪そうな尾張弁も最高でした。

それと、小早川秀秋が裏切るまでの苦悩がしっかり丁寧に描かれているのが素晴らしかった。一般に小早川秀秋といえば優柔不断なバカ殿として描かれることが多いだけに、これは良かったです。クヨクヨ悩んで、罪悪感かかえてる姿がとても感動的でした。

石田三成襲撃事件の時、三成が徳川家康邸に逃げ込んだとか、三杯の茶で秀吉が石田三成を見出したとか…まじめな歴史学の上からいえばファンタジーとされるようなエピソードが堂々と描かれてますが。

でもそれは、司馬遼太郎さんの原作に忠実にやってるんですね。史実の関ヶ原ではなく、「司馬ワールドの」関ヶ原とみると、非常に楽しめます。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

朗読・解説:左大臣光永
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