古事記(十一)稲羽(いなば)の素兎(しろうさぎ)

こんにちは。左大臣光永です。

本日、部屋に防音室を設置しました。カワイの職人さんたちが来て半日で工事が終わりました。いや~すごい!思いっきり絶叫してもピタッと外からは聞こえなくなります。-35デジベルタイプと-40デジベルタイプがあって-40のほうが防音効果が高いんので奮発して-40にしたんですが、たった5の差といっても体感性能がぜんぜん違います。買ってよかったです。

さてまずは告知です。

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そして、講演会のお知らせです。
9/22(金)16:30~
静岡で講演します。「声に出して読む 小倉百人一首」
今回が百人一首の最終回です。91番から100番まで
会場の皆様とご一緒に声を出して読み、解説していきます。
静岡近郊の方はぜひ聞きにいらしてください。
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では、いってみましょう。

本日のメルマガは、
『古事記』の十一回目「稲羽(いなば)の素兎(しろうさぎ)」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Kojiki011.mp3

これも日本人なら誰もが知ってる、おなじみの話ですが、
『古事記』の本文でちゃんと読んだことがある、という方は
意外と少ないのではないでしょうか?

スサノオノミコトの六代目の子孫が大国主神であり、この大国主神が大勢いた兄弟たちの中から抜きん出て、やがて地上世界を束ねる存在となっていくわけですが…しかし若い頃の大国主神は、パッとしませんでした。その名もオオアナムチノカミと呼ばれ、大勢いる兄弟たちに下っ端あつかいされていました。
↓↓↓↓

故《かれ》、此の大国主神の兄弟《はらから》は、八十神《やそかみ》坐《いま》しき。然《しか》れども、皆、国は大国主神《おほくにぬしのかみ》に避りき。避りし所以《ゆえ》は、其の八十神《やそかみ》、各《おのおの》、稲羽の八上比売《やかみひめ》に婚《あ》は欲《おも》ふ心有りて、共に稲羽に行きし時、大穴牟遅神《あほあなむぢのかみ》に袋を負はせ、従者《ともびと》として、率《い》て往《ゆ》きき。

さて、この大国主神の兄弟は、大勢いらっしゃった。しかし皆、国を大国主神に委ねた。委ねたわけは、その大勢の兄弟は、それぞれ因幡の八上比売《やかみひめ》と結婚しよう思う心があって、共に稲羽に行った時に、オオアナムヂノミコトに袋を背負わせて、従者として、連れて行った。

続きです。兄弟たちが、皮をひんむかれて苦しむウサギに対して、嘘の治療法を教える場面です。

是《ここ》に、気多前《けたのさき》に到りし時に、裸《あかはだ》の菟《うさぎ》、伏せりき。爾《しか》くして、八十神《やそかみ》、其の菟に謂《い》ひて伝《ひ》ひしく、

「汝《なむち》が為《せ》まくは、此の海塩《うしほ》を浴《あ》み、風の吹くに当たり、高き山の尾上《おのえ》に伏せれ」

故《かれ》、其の菟《うさぎ》、八十神《やそかみ》の教《おしへ》に従ひて、伏せりき。

そして気多の岬についた時、赤裸のウサギが伏していた。そこで兄弟たちは、そのウサギに言った。

「お前が治りたいなら、この海水を浴びて、風の吹くのに当たって、高い山の頂きに横になっておれ」

そこで、そのウサギは兄弟たちの教えに従って、横になっていた。

……
そこへオオアナムヂが通りかかります。
↓↓↓

爾《しか》くして、其の塩の乾く随《まにま》に、其の身の皮、悉《ことごと》く風に吹き析《さ》かえき。故《かれ》、痛み苦しび泣き伏せれば、最後に来《こ》し大穴牟遅神《おほあなむぢのかみ》、其の菟を見て言ひしく、

「何の由《ゆえ》にか汝《なむち》は泣き伏す」

そこで、その塩が乾くにつれて、その身の皮はことごとく風に吹き裂かれた。そこでウサギが痛がって苦しんで泣き伏していたところ、最後に来たオオアナムヂノカミが、そのウサギを見て言った。

「どうしてお前は泣き伏しているのか」

……
次はウサギが事の次第を語る長台詞です。
↓↓↓

菟答へて言ひしく、

「僕《やつかれ》、淤岐島《おきのしま》に在りて此地《このち》に度《わた》らむと欲《おも》ふと雖《いえど》も、度《わた》らん因《よし》無かりき。故《かれ》、海のわにを欺きて言ひしく、『吾《われ》と汝《むなち》と、競べて、族《うがら》の多さ少なさを計らむと欲《おも》ふ。

故《かれ》、汝《むなち》は、其の続《うがら》の在りの随《まにま》に、悉《ことごと》く率《い》て来て、此《こ》の島より気多《けた》の前《さき》に至るまで、皆列《な》み伏し度《わた》れ。爾《しか》くして、吾、其の上を踏み、走りつつ読み度《わた》らむ。是《ここ》に、吾が族《うがら》と孰《いず》れか多きを知らむ』」

如此《かく》言ひしかば、欺《あざむ》かえて列《な》み伏す時に、吾《あれ》、其の上を踏み、読み度《わた》り来て、今地《つち》に下りむとする時に、吾《あ》が伝はく、

『汝は、我に欺《あざむ》かえぬ』

と言ひ竟《おわ》るに、即ち最《もと》も端に伏せりにわに、我を捕へて、悉《ことごと》く我が衣服を剥《は》ぎき。此《これ》に因《よ》りて泣き患《うれ》へしかば、先《ま》づ行きし八十神《やそがみ》の命《みこと》以て、誨《おし》へて告《の》らししく、『海塩《うしお》を浴《あ》み、風に当りて伏せれ』とのらしき。故《かれ》、教の如く為《せ》しかば、我が身、悉《ことごと》く傷《やぶ》れぬ」

ウサギが答えて言った。

「私は隠岐島にいて、こっちに渡りたいと思っていたんですが、渡る方法がありませんでした。そこで、海のサメを騙して言ったのです。

『私とあなたとくらべて、一族の多い少ないを数えようじゃないですか。だから、あなたは、自分の一族をありったけ集めて来て、この島から気多《けた》の岬まで、ずっと並び伏してください。そこで、私がその上を踏んで、走りながら数を数えて渡ろうじゃないですか。そうすれば、あなたの一族と私の一族と、どっちが多いかわかるでしょう』

このように私が言ったので、サメが騙されて並び伏している時に、私はその上を踏んで、数え渡って来て、もうちょっとで地面につこうという時に、私は言っちゃったんですよ。

『お前は私に騙されたんだ』

そう言い終わるやいなや、一番端に伏していたサメが、私を捕まえて、私の着物を全部はいじゃったんです。こういわけで泣き悲しんでいたところ、最初にやってきたあなたの兄弟たちが私に教えて言いました。

『海水を浴びて、風に当って伏しておれ」

と!そこで、教えられたとおりにしたところ、私の体は、ことごとく傷ついたのです」

……
ウサギの話を聞いたオオアナムヂノミコトは、正しい治療法を教えてあげます。

是《ここ》に、大穴牟遅神《おおあなむぢ》、其《そ》の菟《うさぎ》に教へて告《の》らししく、

「今急《すむ》やけく此《こ》の水門《みなと》に往《い》き、水を以《もち》て汝《なむち》が身を洗ひて、即ち其の水門の蒲黄《かまのはな》を取り、敷き散《ちら》して其の上に輾転《こいまろ》ばば、汝《むなち》が身、本《もと》の膚《はだ》の如《ごと》く必ず差《い》えむ」

故《かれ》、教の如く為《せ》しに、其《そ》の身、本《もと》の如し。此《これ》、稲羽《いなば》の素菟《しろうさぎ》ぞ。今には菟神《うさぎがみ》と謂ふ。

故《かれ》、其《そ》の菟《うさぎ》、大穴牟遅神《おおあなむぢ》に白《もー》ししく、「此《こ》の八十神《やそがみ》は、必ず八上比売《やかみひめ》を得じ。袋を負へども、汝が命《みこと》、獲《え》む」

そこでオオアナムヂノ神が、そのウサギに教えておっしゃることに、

「今急いでこの河口に行って、水でお前の体を洗って、。すぐにその河口の蒲《がま》の花を取り、敷き散らしてその上に横たわり転がれば、お前の体は、もとの肌のように必ず治るだろう」

そこで教えられたようにした所、その体はもとのようになった。

これが、稲葉《いなば》の素兎《しろうさぎ》である。

今は兎神と言われている。そしてそのウサギが、オオアナムヂの神に申した。

「あなたの兄弟たちは、ぜったいヤカミヒメを手に入れることはできないでしょう。袋を背負って下っ端扱いされていても、あなたこそヤカミヒメを手に入れられます」

……
というわけで、オオアナムヂがウサギに正しい治療法を示して、すっかりウサギはよくなった。感謝したウサギが、あなたの兄弟たちはヤカミヒメを手に入れられません。あなたこそヤカミヒメを手に入れるでしょうとラッキーな予言をする場面でした。

この話のポイントは、

オオアナムヂが医療の神としての性質を持っているということです。ウサギに治療法を教えるくだりに、オオアナムヂが医療の神として信仰されてきたことが色濃く出ています。

これは後々までも重要なポイントとなりますので、

オオアナムヂは医療の神。
オオアナムヂは医療の神。

頭の片隅に留めておいてください。

次回「オオアナムヂの試練」に続きます。お楽しみに。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

古事記 現代語訳つき朗読

朗読・解説:左大臣光永
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