古事記(七)うけひ

こんにちは。左大臣光永です。

私の部屋にはマイクスタンドが二本あるんですよ。ライブハウスに置いてあるようなやつ。ほとんど使わないのでガラクタ同然だったんですが、最近これの使い道を見つけました。

アーム部分を水平にして、T字型にすると、洗濯物をほしたり、布を垂らして「几帳」のようにして使えるんです。マイクスタンドにこんな使い道があったとは!我ながら感心しています。

さて本日は『古事記』の七回目「うけひ」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Kojiki007.mp3

■関連商品■

語り継ぐ日本神話
http://sirdaizine.com/CD/myth.html
9/20まで特典つきで発売中

前回は、スサノオノミコトが姉であるアマテラスオオミカミの宮殿に挨拶に行く。するとアマテラスオオミカミは私の国を奪いにきたのだわと勘違いして、臨戦態勢を取る。

スサノオ「誤解です姉上。私はただ挨拶しに来ただけです」
アマテラス「ならばお前の心が清いことはどうやって証明するのか」
スサノオ「では、各々うけひを行って子を生みましょう」

うけひとは、古代の占いです。アマテラスとスサノオと、お互いに子を生んで、その子のありようによって、スサノオが清い心か、邪な心か占おうということです。ここまでが前回の話でした。

続きです。

まずアマテラスオオミカミがスサノオから剣を受取り、それを噛み砕いて吹き出すと、三柱の女神が生まれる。次にスサノオがアマテラスから玉飾りを受け取って、それを噛み砕いて吹き出すと、五柱の男神が生まれる…という場面です。
↓↓↓↓

スサノオとアマテラスのうけひ

故《かれ》爾《しか》くして、各《おのおの》天の安《やす》の河を中に置きて、うけふ時、天照大御神《あまてらすおおみかみ》、先《ま》づ建速須佐之男命《すさのをのみこと》の佩ける十拳《とつか》の剣《つるぎ》を乞ひ度《わた》して、三段《みきだ》に打ち折りて、ぬなとももゆらに天《あめ》の真名井《まない》に振り滌《すす》ぎして、さがみにかみて、吹き棄《う》つる気吹《いふき》の狭霧《さぎり》に成れる神の御名《みな》は、多紀理毘売命《たきりびめのみこと》。

亦《また》の御名《みな》を、奥津島比売命《おきつしまひめのみこと》と謂ふ。次に、市寸島比売命《いちきしまひめのみこと》。亦《また》の御名《みな》を、狭依毘売命《さよりびめのみこと》と謂ふ。次に、多岐都比売命《たぎつひめのみこと》。

速須佐男命《はやすさのをのみこと》、天照大御神《あまてらすおおみかみ》の左の御《み》みづらに纏《ま》ける八尺《やさか》の勾玉《まがたま》の五百津《いほつ》のみすまるの珠《たま》を乞ひ度《わた》して、ぬなとももゆらに天《あめ》の真名井《まない》に降り滌《すす》ぎて、さがみにかみて、吹き棄《う》つる気吹《いふき》の狭霧《さぎり》に成れる神の御名《みな》は、正勝吾勝々速日天之忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》。

亦《また》、右の御みづらに纏《ま》ける珠を乞ひ度《わた》して、さがみにかみて、吹き棄《う》つる気吹《いふき》の狭霧《さぎり》に成れる神の御名《みな》は、天之菩卑能命《あめのほひのみこと》。亦《また》、御縵《みかづら》に纏《ま》ける珠《たま》を乞ひ度《わた》して、さがみにかみて、吹き棄《う》つる気吹《いふき》の狭霧《さぎり》に成れる神の御名は、天津日子根命《あまつひこねのみこと》。

又、左の御手《みて》に纏《ま》ける珠を乞ひ度《わた》して、さがみにかみて、吹き棄《う》つる気吹《いふき》の狭霧《さぎり》に成れる神の御名《みな》は、活津日子根命《いくつひこねのみこと》。又、右の御手《みて》に纏《ま》ける珠《たま》を乞ひ度《わた》して成れる神の御名は、熊野久須毘命《くまのくすびのみこと》。あわせて五柱《いつはしら》ぞ。

さてこうして、各々天《あめ》の安河《やすのがわ》を中に置いて、うけいを行う時に、天照大御神は、まず健速須佐之男命の佩いた十拳の剣を乞い受けて、これを三つに打ち折って、音がさやかに鳴るほど、天の真名井…高天原の神聖な井戸でふりすすいで、噛みに噛んで吹き出した息吹の霧に成った神の御名は、多紀理毘売命《たきりびめのみこと》。

またの御名を奥津島比売命《おきつしまひめのみこと》という。次に、市寸島比売命《いちきしまひめのみこと》。またの御名を狭依毘売命《さよりびめのみこと》という。次に、多岐都比売命《たぎつひめのみこと》。

速須佐男命《はやすさのをのみこと》は、天照大御神《あまてらすおおみかみ》の左の御みづらに巻いた八尺《やさか》の勾玉が玉の緒でもってたくさんの玉が貫いた髪飾りの玉を乞い受け、音がさやかに鳴るほど、「天の真名井」…高天原の神聖な井戸にふりすすいで、それを噛みに噛んで、吹き出した息吹の霧に成った神の御名は、正勝吾勝々速日天之忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》。

また、右の御みづら巻いた玉を乞い受け、噛みに噛んで、吹き出した息吹の霧に成った神の御名は、天之菩卑能命《あめのほひのみこと》。亦《また》、「御縵《みかづら》」…髪飾りに巻いた玉を乞ひ受けて、噛みに噛んで、吹き出した息吹のの狭霧《さぎり》に成った神の御名は、天津日子根命《あまつひこねのみこと》。

又、左の御手《みて》に巻いた珠を乞ひ受けて、噛みに噛んで、吹き出した息吹の霧に成った神の御名《みな》は、活津日子根命《いくつひこねのみこと》。又、右の御手《みて》に巻いた珠《たま》を乞ひ受けて成った神の御名は、熊野久須毘命《くまのくすびのみこと》。あわせて五柱《いつはしら》の神々であった。

スサノオの剣からは、三柱の女神が生まれてきた。
アマテラスの首飾りからは、五柱の男神が生まれてきた、
という場面です。

スサノオとアマテラスのうけひ

さてこれを、どう判定するのか?
↓↓↓

是《ここ》に、天照大御神《あまてらすおおみかみ》、速須佐之男命《はやすさのをのみこと》に告《の》らししく、

「是《こ》の、後《のち》に生める五柱《いつはしら》の男子《をのこ》は、物実《ものざね》我《あ》が物に因りて、成れるが故に、自《おのづか》ら吾《あ》が子ぞ。先《ま》づ生める三柱《みはしら》の女子《めのこ》は、物実《ものざね》汝《なむち》が物に因《よ》りて成れるが故に、乃《すなわ》ち汝《なむち》が子ぞ」

如此《かく》詔《の》り別《わ》きき。

故《かれ》、其《それ》、先《ま》づ生める神、多紀理毘売命《たぎりびめのみこと》は、胸形《むなかた》の奥津宮《おくつみや》に坐《いま》す。次に、市寸島比売命《いちきしまひめのみこと》は、胸形《むなかた》の中津宮《なかつみや》に坐《いま》す。

次に、田寸津比売命《たきつひめのみこと》は、胸形《むなかた》の辺津宮《へつみや》に坐《いま》す。此《こ》の三柱《みはしら》の神は、胸形君等《むなかたのきみら》の以《も》ちいつく、三前《みまえ》の大神《おほかみ》ぞ。故《かれ》、此《こ》の、後に生める五柱《いつはしら》の子の中に、天菩比命《あめのほひのみこと》の子、建比良鳥命《たけひらとりのみこと》、

(此《これ》は、出雲国造《いずものくにのみやつこ》・無耶志国造《むざしのくにのみやつこ》・上菟上国造《かみつうなかみのくにのみやつこ》・下菟上国造《しもつうなかみのくにのみやつこ》・伊自牟《いじむの》国造・津島県直《つしまのあがたのあたひ》・遠江《とほつあふみ》の国造等《ら》が祖《おや》ぞ)

次に、天津日子根命(あまつひこねのみこと)は、凡川内国造《おほちこふちのくにのみやつこ》・額田部湯坐連《ぬかたべのゆゑのむらじ》・茨木国造《うばらきのくにのみやつこ》・倭田中直《やまとのなかのあたい》・山代国造《やましろのくにのみやつこ》・馬来田《うまぐたの》国造・道尻岐閉《みちのしりのきへの》国造・周芳《すはの》国造・倭淹知造《やまとのあむのみやつこ》・高市県主《たけちのあがたぬし》・蒲生稲寸《かまふのいなき》・三枝部造等《さきくさべのみやつこら》が祖《おや》ぞ。

ここに、天照大御神《あまてらすおおみかみ》、速須佐之男命《はやすさのをのみこと》におっしゃることに、

「この、後に生んだ五柱の男子は、物実として私の持ち物から成ったので、当然私の子である。最初に生んだ三柱の女子は、物実としてお前の物によって成ったので、つまりお前の子である」

(「物実」は材料としての物)

と、このように仰って、御子たちの属をお決めになった。

そこで、最初に生んだ神、多紀理毘売命《たぎりびめのみこと》は、胸形《むなかた》の奥津宮《おくつみや》に鎮座されている。

次に、市寸島比売命《いちきしまひめのみこと》は、胸形《むなかた》の中津宮《なかつみや》に鎮座されている。

次に、田寸津比売命《たきつひめのみこと》は、胸形《むなかた》の辺津宮《へつみや》に鎮座されている。。此《こ》の三柱《みはしら》の神は、胸形君等《むなかたのきみら》たちが祭り伝える、三前《みまえ》の大神《おほかみ》である。

スサノオとアマテラスのうけひ

そして、この、後に生める五柱《いつはしら》の子の中に、天菩比命《あめのほひのみこと》の子は、建比良鳥命《たけひらとりのみこと》、

(此《これ》は、出雲国造《いずものくにのみやつこ》・無耶志国造《むざしのくにのみやつこ》・上菟上国造《かみつうなかみのくにのみやつこ》・下菟上国造《しもつうなかみのくにのみやつこ》・伊自牟《いじむの》国造・津島県直《つしまのあがたのあたひ》・遠江《とほつあふみ》の国造等《ら》が祖先である)

次に、天津日子根命(あまつひこねのみこと)は、凡川内国造《おほちこふちのくにのみやつこ》・額田部湯坐連《ぬかたべのゆゑのむらじ》・茨木国造《うばらきのくにのみやつこ》・倭田中直《やまとのなかのあたい》・山代国造《やましろのくにのみやつこ》・馬来田《うまぐたの》国造・道尻岐閉《みちのしりのきへの》国造・周芳《すはの》国造・倭淹知造《やまとのあむのみやつこ》・高市県主《たけちのあがたぬし》・蒲生稲寸《かまふのいなき》・三枝部造等《さきくさべのみやつこら》が祖先である。

……

スサノオの剣からは三柱の女神が生まれてきた。
アマテラスの首飾りからは五柱の男神が生まれてきた。

だから三柱の女神はスサノオの子であり、
五柱の男神はアマテラスの子である、という話です。

で…

これでどうやって勝敗が決まるのか?

そもそも何をもって勝ちとするか負けとするか、条件が書かれていませんので、意味がわからないんですが…

この後の話の流れを見ると、「女が生まれたほうが勝ち」らしいです。つまり、スサノオの勝ちです。

しかしなぜ女が生まれると勝ちなのか?

そもそも最初にうけひの条件を宣言してもいないのに、これは勝負として成立するのか?

いろいろ疑問が残るところです。

『古事記』の原型が作られたのは持統天皇や元明天皇といった女帝の時代だったから、女子がいいとされた、という説がありますが、だとしたら、イザナキとイザナミが結婚の儀式をした話で女のほうから声をかけたので儀式が失敗して、未熟児が生まれた、という前の話は、女性優位ということと矛盾してます。

いったいどういうことなんでしょうねえ…よくわかりません。

明日は「天の岩屋」です。お楽しみに。

発売中です

語り継ぐ日本神話
http://sirdaizine.com/CD/myth.html

日本神話をわかりやすい現代の言葉で語った音声つきCD-ROMです。

上巻「神代(かみよ)篇」は
イザナキ・イザナミによる国造り、
アマテラスオオミカミやスサノオノミコトの活躍、
出雲神話、国譲り、天孫降臨、海幸彦山幸彦の神話を経て、
神武天皇の時代まで。

下巻「人代(ひとよ)篇」は
10代崇神天皇から、英雄ヤマトタケルノミコト、
神功皇后の遠征、応神天皇や仁徳天皇の事跡、
雄略天皇の暴虐と優雅。そして二人の王子
オケとヲケの復讐の物語まで。

神代篇・人代篇あわせて
『古事記』のほぼ全編を、現代の言葉でわかりやすく語っています。

9/20まで特典のメール講座「飛鳥・奈良の歴史を旅する」をつけて
再発売しています。お申込みはお早めにどうぞ。
http://sirdaizine.com/CD/myth.html

本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

朗読・解説:左大臣光永
>