古事記(十三)スサノオの試練

こんにちは。左大臣光永です。

ラーメンに、チャーシューとか、エビとか、いろいろ具がのってますが、あれはダシでもあるので最初から食べないほうがいいと思うんですよ。

食べている間に、じゅうぶんにダシが染み渡っていく。それが、いいわけですからね。

しかし、麺を完全に食べ終わってから、スープの中に残った具だけを食べるのも空しいものがあります。

「どのタイミングで、具を食べるのか?」これはラーメンにおいて、難しい問題だなァと…、最近はそんなことを考えています。

本日は、『古事記』の第十三回「スサノオの試練」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Kojiki13.mp3

前回は、オオアナムヂが兄弟たちにさまざまな意地悪をされ、何度も殺されかける。そこで母が、お前このままじゃまた殺されるよ。スサノオノミコトのいらっしゃる根堅州国《ねのかたすくに》に逃げなさいということで、オオアナムヂを逃がす所まででした。

今回は、オオアナムヂが根堅州国に降り立ったところからです。

故《かれ》、詔命《みことのり》の随(まにま)に、須佐之男命《すさのおのみこと》の御所《みもと》に参《ま》ゐ到りしかば、其の女《むすめ》、須勢理毘売《すせりびめ》出《い》でて見て、目合《めくわせ》して、相《あい》婚《あ》ひき。還り入りて、其の父に白《もー》して言ひしく、

「甚《いと》麗《うるは》しき神、来たり」

爾《しか》くして、其の大神《おおがみ》、出でて見て告《の》らししく、

「此《これ》は、芦原色許男命《あしはらしこをのみこと》と謂ふぞ」

そこで、母の命令に従って、スサノオノミコトのいらっしゃる所に参上したところ、その娘、スセリビメが出て、目が合って、お互いに結婚した。戻って(スサノオミコトの宮殿の)中に入って、その父に申し上げて言うことに、

「とても立派な神が、来ました」

そこで、その大神(スサノオノミコト)は、外に出て、オオアナムヂを見て、言うことに、

「これは、アシハラシコヲノミコト(地上世界から来た醜男)というのだ」

即ち喚《よ》び入れて、其《そ》の蛇《へみ》の室《むろ》に寝《い》ねしめき。是《ここ》に、其の妻《め》須勢理毘売命《すせりびめのみこと》、蛇《へみ》のひれを以て其の夫《を》に授けて伝ひしく、

「其の蛇《へみ》咋《く》はむとせば、此《こ》のひれを以て三たび挙《ふ》りて打ち撥《はら》へ」

故《かれ》、教えの如くすれば、蛇《へみ》、自《おのづか》ら静まりき。故《かれ》、平らけく寝《い》ねて出でき。亦《また》、来《こ》し日の夜《よ》は、呉公《むかで》と蜂の室《むろ》に入れき。亦《また》、呉公《むかで》と蜂とのひれを授けて教ふること、先の如し。

故《かれ》、平らけく出《い》でき。

すぐにスサノオノミコトはオオアナムヂを呼び入れて、その蛇の部屋に寝させた。そこで、その妻スセリビメの命は、蛇のひれ(飾り用の布)をその夫に授けて言うことに、

「その蛇が食いつこうとしたら、このひれを三度振って、打払いなさい」

そこで、教えのようにしたら、蛇は、自然に静まった。そこで、何の問題もなく寝て、蛇の部屋から出てきた。また、次の日の夜は、ムカデと蜂の部屋に入れた。また、ムカデと蜂のひれを授けて前回のように教えた。

そこで、何の問題もなく部屋を出てきた。

亦《また》、鳴鏑《かぶら》を大《おー》き野の中に入れて、其の矢を採《と》らしめき。故《かれ》、其の野に入りし時に、即ち火を以て其の野を廻り焼きき。

是《ここ》に出でむ所を知らざる間に、鼠、来て言ひしく、

「内はほらほら、外はすぶすぶ」

如此《かく》言ひき。

故《かれ》、其処《そこ》を蹈《ふ》みしかば、落ちて隠《こも》り入りし間に、火は焼け過ぎにき。爾《しか》くして、其の鼠、其の鳴鏑《かぶら》を咋《く》ひ持ちて出《い》で来て、奉《まつ》りき。

其の矢の羽は、其の鼠の子等《こら》、皆喫《く》へり。

是《ここ》に、其の妻《め》、須世理毘売《すせりびめ》は、喪《も》の具《そなへ》を持ちて哭《な》き来るに、其《そ》の父の大神《おほかみ》は、已《すで》に死に訖《おわ》りぬと思ひて、其の野に出《い》で立ちき。

また、鏑矢を広い野の中に飛ばし入れて、その矢を取ってこいと命じた。そこで、オオアナムヂがその野に入った時に、すぐに火をつけてその野を周囲から焼いた。

そこで、出口がわからないでいる間に、鼠が来て言うことに、

「中は空っぽ、外は狭い」

このように言った。

そこで、その場所を踏んでみると、落ちて、隠れて入っている間に、火は焼け過ぎた。このようにして、その鼠は、その鏑矢を咥え持って、出て来て、オオアナムヂに差し上げた。

その矢の羽は、その鼠の子供たちによって、ぜんぶかじられていた。

ここに、その妻、スセリビメは、死者を弔う品を持って、泣きに来たところ、その父の大神は、もうオオアナムヂは死んだと思って、その野に立った。

爾《しか》くして、其の矢を持ちて奉《まつ》りし時に、家に率《ゐ》て入りて、八田間《やたま》の大室《おおむろ》に喚《め》し入れて、其の頭《かしら》の虱《しらみ》を取らしめき。

故《かれ》爾《しか》くして、其の頭《かしら》を見れば、呉公《むかで》、多《あま》た在《あ》り。是《ここ》に、其の妻《め》、むくの木の実と赤土を取りて、其の夫《を》に授けき。

故《かれ》、其の木の実を咋《く》ひ破り、赤土を含み、唾《は》き出《いだ》ししかば、其の大神《おほかみ》、呉公《むかで》を咋《く》ひ破り唾《は》き出《いだ》すと以為《おも》ひて、心に愛《うつく》しと思ひて、寝き。

ところが、オオアナムヂがその矢を持ってスサノオに差し上げたので、スサノオはオオアナムヂを家に連れて帰って、広い大室(洞窟)に呼び入れて、その頭の虱を取らせた。

そこで、その頭を見れば、ムカデがたくさんいる。ここにその妻スセリビメは、むくの木の実と赤土を取って、その夫に授けた。

そこでオオアナムヂはその木の実を噛み砕き、赤土を口に含み、吐き出したところ、スサノオは、ムカデを噛み砕いて吐き出すと思って、心の中で可愛い奴と思って、寝た。

爾《しか》くして、其の神の髪を握《と》り、其の室《むろ》に椽《たりき》ごとに結ひ著《つ》けて、五百引《いほびき》の石《いは》を其の室戸《むろと》に取り塞ぎ、其の妻《め》、須世理毘売を負ひて、即ち其の大神《おほかみ》の生大刀《いくたち》と生弓矢《いくゆみや》と、其の天《あめ》の沼琴《ぬごと》とを取り持ちて、逃げ出でし時に、其の天《あめ》の沼琴《ぬごと》、樹に払《ふ》れて、地、動《とよ》み鳴りき。

故《かれ》、其の寝ねたる大神《おおかみ》、聞き驚きて、其の室《むろ》を引き仆《たお》しき。然れども、椽《たりき》に結へる髪を解く間に、遠く逃げき。

そこで、その神スサノオの髪の毛をつかみ、その室の垂木ごとに結びつけて、五百人が引いても動かない岩をその室の入り口を塞いで、その妻、スセリビメを背負って、すぐにその大神スサノオの宝である生太刀と生弓矢と天(あめ)の沼琴(ぬごと)とを取り持って、逃げ出した時に、その天の沼琴が樹に触れて、大地が動くような大きな音がした。

そこで、その寝ていた大神は、聞いてメを覚まして、その室を引き倒した。しかし、垂木に結びつけた髪の毛をほどいている間に、オオアナムヂとスセリビメは遠くに逃げてしまった。

故《かれ》爾《しか》くして、黄泉比良坂《よもつひらさか》に追ひ至り、遥かに望みて、呼びて、大穴牟遅神《おほあなむぢのかみ》に謂ひて曰ひしく、

「其の、汝《なむち》が持てる生大刀《いくたち》・生弓矢《いくゆみや》を以て、汝の庶兄弟《ままはらから》を坂の御尾《みお》に追ひ伏せ、亦《また》、河の瀬に撥《はら》ひて、おれ、大国主神《おほくにぬしのかみ》と為り、亦《また》、宇都志国玉神《うつくしくにたまのかみ》と為りて、其の我《あ》が女《むすめ》須世理毘売《すせりびめ》を適妻《むかひめ》と為《し》て、宇迦能山《うかのやま》の山本《やまもと》にして、底津石根《そこついわね》に宮柱《みやばしら》ふとしり、高天原《たかまがはら》に氷椽《ひぎ》たかしりて居《を》れ。是《こ》の奴《やっこ》や」

このようにして、スサノオは黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追ってきて、遥かに望んで、呼んで、オオアナムヂノ神に言うことに、

「その、お前が持っている生太刀・生弓矢で、お前の兄弟たちを坂の尾根ごとに追い伏せ、また、河の瀬に追い払え。お前は、大国主神(おほくにぬしのかみ)となり、また、宇都志国玉神(うつくしくにたまのかみ)となって、その我が娘・スセリビメを正妻として、宇迦能山《うかのやま》の山のふもとに、地底深く宮殿の柱を立てて、高天原(たかまがはら)に千木を高々と立てて住まえ。こいつめ」

■適妻 本妻。 ■宇迦能山《うかのやま》 出雲大社の東北の御崎山。「宇迦」は穀物・食物。 ■底つ岩根に 地底の岩に届くほどの。 ■宮柱《みやばしら》ふとしり 宮殿の柱を太く立て、 ■氷椽《ひぎ》たかしりて 千木を高々と立てる。千木は屋根から突き出した柱。神社によく見られる。 

故《かれ》、其の大刀《たち》・弓を持ちて、其の八十神《やそがみ》を追ひ避りし時に、坂の御尾《みお》ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥《はら》ひて、始めて国を作りき。

故《かれ》、其の八上比売《やかみひめ》は、前《さき》の期《ちぎり》の如くみとあたはしつ。故《かれ》、其の八上比売《やかみひめ》は、率《ゐ》て来つれども、其の適妻《むかひめ》須世理毘売《すせりびめ》を畏《かしこ》みて、其の生める子をば木の俣《また》に刺し挟みて返りき。

故《かれ》、其の子の名を木俣神《きのまたのかみ》と伝《い》ふ。亦《また》の名を、御井神《みゐのかみ》と謂ふ。

そこで、その太刀・弓で、件の兄弟たちを追い払った時に、坂の尾根ごとに追い伏せ、河の瀬ごとに追い払って、国造りを始めた。

さて、ヤカミヒメは、以前の約束のとおり、大国主神と結婚した。そしてそのヤカミヒメは、出雲へ連れてこられたが、その正妻のスセリビメを恐れて、その産んだ子を木の股に挟んで、因幡に帰ってしまった。

それで、その子の名を木俣神(きのまたのかみ)という。またの名を、御井神(みいのかみ)という。

■みとあたはしつ 夫婦の契をした。結婚した。

……

オオアナムヂがスサノオノミコトからのさまざまな試練を乗り越えて、正妻のスセリビメを手に入れ、地上世界の支配者・大国主神となるところまででした。

蛇の室、ムカデと蜂の室、野に放った鏑矢など、さまざまな試練は、少年が大人になるための通過儀礼を神話的に語ったものです。現在でいえば、受験・就職・結婚などがそれに当たるでしょうか。

スサノオが最初、娘の婚約者に対して嫉妬するところとか、ひがんだ感じなのも、いい味出してますね。

だからこそ、スサノオが最終的にオオアナムヂを祝福し、地上世界の王と認める、その度量の広さが、感動的に、際立って見えます。

発売中です

語り継ぐ日本神話
http://sirdaizine.com/CD/myth.html

日本神話をわかりやすい現代の言葉で語った音声つきCD-ROMです。

神代篇・人代篇あわせて
『古事記』のほぼ全編を、現代の言葉でわかりやすく語っています。

詳しくはリンク先まで。
http://sirdaizine.com/CD/myth.html

本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

朗読・解説:左大臣光永
>