古事記(十九)タケミカヅチノカミの派遣

こんにちは。左大臣光永です。

猫は人間の言葉がわかるんでしょうか?

そう実感する出来事が、今日、あったのですよ。嵐山を歩いていたら、デーンと豪華な、いかにも金持ちな豪邸があって、その豪邸から、これまた金持ちっぽい派手派手しい猫が出てきてですね、にゃおんと私にじゃれつくんですよ。

私は手をのばして撫でさすりながらも、お前派手やなぁ、私はもっと野良猫ぽくて、世間の誰からも注目されない感じの猫が好きですよと言うと、にゃおんと一声、すっと私から離れたので、猫も人間の言葉がわかるのかなァと思いました。

さて本日は、『古事記』の第十九回
「タケミカヅチノカミの派遣」です。

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高天原から葦原中国に遣わした使者はすべて失敗しました。そこで新たな使者として、タケミカヅチノカミとアメノトリフネノカミを遣わします。

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是《ここ》に、天照大御神《あまてらすおおみかみ》の詔《のりたま》ひしく、

「亦《また》、曷《いづ》れの神を遣さば、吉《よ》けむ」

爾《しか》くして、思金神《おもひかねのかみ》と諸《もろもろ》の神が白《もー》ししく、

「天安河《あめのやすのがわ》の河上《かはかみ》の天石屋《あめのいしや》に坐《いま》す、名は伊都之尾羽張神《いつのおはばりのかみ》、是《これ》を遣はす可《べ》し。若《もし》くは亦《また》、此《こ》の神に非《あら》ずは、其の神の子、建御雷之男神《たけみかづちのおのかみ》此《これ》を遣すべし。

且《また》、其の天尾羽張神《あめのおはばりのかみ》は、逆《さかし》まに天《あめ》の安の河の水を塞《せ》き上げて、道を塞ぎ居《お》るが故に、他《あた》し神は、行くことを得じ。故《かれ》、別《こと》に天迦久神《あめのかくのかみ》を遣はして問ふべし」

さてここに、アマテラスオオミカミがおっしゃることに、

「今度はどの神を遣わせばよいか」

そこで、オモイカネノカミと諸々の神が申すことに、

「天の安の河の河上の天の岩屋にいらっしゃる、その名もイツノオハバリノカミ、これを遣わすべきです。もしまた、この神でないなら、その神の子、タケミカヅチノ男神、これを遣わすべきです。また、そのアメノオハバリノカミは、逆さまに天の安の河の水を堰上げて、道を塞いでいるので、ほかの神はアメノオハバリノカミのところに行くことができません。そこで、特にアメノカクノカミを遣わして尋ねるべきです」

■伊都之尾羽張神《いつのおはばりのかみ》 イザナキがわが子カグツチを斬った剣。その剣によってカグツチの血が神聖な石の上に飛び散って成った神の中に、建御雷之男神《たけみかづちのおのかみ》がいる。 ■天尾羽張神《あめのおはばりのかみ》 伊都之尾羽張神の別名。 ■建御雷之男神《たけみかづちのおのかみ》 鹿島神宮の祭神。中臣氏によって祀られた。大和王権で中臣氏が力をのばしていったことを表すか?

故《かれ》爾《しか》くして、天迦久神《あめのかくのかみ》を使はして天尾羽張神《あめのおはばりのかみ》に問ひし時、答へて白《もー》さく、

「恐《かしこ》し。仕へ奉《まつ》らむ。然《しか》れども、此道《このみち》には、僕《やつかれ》が子、建御雷神《たけみかづちのかみ》を遣はす可《べ》し」

乃《すなわ》ち貢進《たてまつ》りき。

爾《しか》くして、天鳥船神《あめのとりふねのかみ》を建御雷神《たけみかづちのかみ》に副《そ》へて遣はしき。

それで、アメノカクノカミを遣わしてアメノオハバリノカミに尋ねた時、アメノオハバリノカミが答えて申すことに、

「恐れ多いことです。お仕え申し上げましょう。しかしこの仕事には、私の子、タケミカヅチノカミを遣わすのがよいようです」

そう言って、すぐにタケミカヅチノカミを差し出した。

そこで、アメノトリフネノカミをタケミカヅチノカミに添えて遣わした。

■天鳥船神《あめのとりふねのかみ》 イザナキ・イザナミより生まれた神の一柱。天を駆ける鳥のように速く進む船の意。

是《ここ》を以《もち》て、此《こ》の二はしらの神、出雲国《いずものくに》の伊耶佐《いなさ》の小浜《をはま》に降り到りて、十掬《とつか》の剣《つるぎ》を抜き、逆《さかし》まに浪の穂に刺し立て、其の剣の前《さき》に趺《あぐ》み坐《い》て、其の大国主神《おほくにぬしのかみ》に問ひて言ひしく、

「天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》の命《みこと》以《もち》て問ひに使はせり。汝《なむち》がうしはける葦原中国《あしはらのなかつくに》は、我《わ》が御子《みこ》の知らさむ国と言依《ことよ》し賜ひき。故《かれ》、汝《なむち》が心は、奈何《いか》に」

爾《しか》くして、答へて白《もー》ししく、

「僕《やつかれ》は、白《もー》すこと得ず。我《あ》が子八重言代主神《やえことしろぬしのかみ》、是《これ》を白《もー》すべし。然《しか》れども、鳥の遊び・取魚《すなどり》を為《し》て、御大之前《みをのさき》に往《ゆ》きて、未だ還《かへ》り来ず」

故《かれ》、爾《しか》くして、天鳥船神《あめのとりふねのかみ》を遣はして、八重事代主神《やえことしろぬしのかみ》を徴《め》し来《き》て、問ひ賜ひし時に、其の父の大神《おほかみ》に語りて言はく、

「恐《かしこ》し。此の国は、天《あま》つ神の御子《みこ》に立奉《たてまつ》らむ」

即《すなは》ち其《そ》の船を蹈《ふ》み傾《かたぶ》けて、天《あめ》の逆手《さかて》を青柴垣《あをふしかき》に打ち成して隠りき。

こうして、このニ柱の神が、出雲国の伊耶佐(いなさ)の小浜(をはま)に降り着いて、(タケミカヅチノカミは)十掬(とつか)の剣を抜き、逆さまに波の末に刺し立て、その剣の先にあぐらをかいて、葦原中国の主・大国主神に尋ねて言うことに、

「アマテラスオオミカミ・タカギノカミの勅命によって、お前に尋ねるために遣わされたのだ。お前が領有している葦原中国は、我が御子の治める国として委任したものであると。さて、お前の心はどうだ」

そこで、答えて申し上げた。

「私は申すことができません。わが子ヤエコトシロヌシノカミが、これを申すでしょう。しかし、鳥や魚を捕るために御大之前(みをのさき)に行って、まだ帰ってきません」

そこで、テメノトリフネノカミを遣わして、ヤエコトシロヌシノカミを呼んできて、お尋ねになった時に、その父・大国主神に語って言うことに、

「恐れ多いことです。この国は、天つ神の御子に差し上げましょう」

そう言ってすぐにヤエコトシロヌシノカミはその船を踏んでひっくり返して、天の逆手を打って、船を青柴垣(あをふしかき)… 青葉の柴垣に変えて、その中に隠れてしまった。

■伊耶佐《いなさ》の小浜《をはま》 島根県簸川郡大社町の稲佐浜。 ■うしはける 領有する。 ■白すこと得ず 大国主は自分では答えず言代主神に答えさせる。これは言代主神が信託を告げる神・メッセンジャーであるためか。「言代」という字がこの神のメッセンジャーとしての性質をあらわす。 ■天の逆手 古代の呪術。ふつうの柏手と違い、手の甲どうしを叩き合わせるものか? ■青柴垣《あをふしかき》 魚を捕らえるために、灌木を水際にしかけたもの。 ■打ち成して 「天の逆手」を打って、船を「青柴垣」に変えた。

故《かれ》爾《しか》くして、其の大国主神《おほくにぬしのかみ》に問ひて、

「今、汝《なむち》が子・事代主神《ことしろぬしのかみ》、如此《かく》白《もー》し訖《おは》りぬ。亦《ま》た、白《もー》すべき子の有りや」

是《ここ》に亦《また》、白《もー》さく、

「我《あ》が子建御名方神《たけみなかたのかみ》有り。此《これ》を除《お》きては無し」

如此《かく》白《もー》す間、其《そ》の建御名方神《たけみなかたのかみ》、千引《ちびき》の石《いは》を手末《たなすゑ》に擎《ささ》げて来て、言《い》ひしく、

「誰《たれ》ぞ我《あ》が国に来たりて、忍ぶ忍ぶ如此《かく》物言ふぞ。然《しか》らば力競《ちからくら》べを為《せ》むと欲《おも》ふ。故《かれ》、我《あれ》、先《ま》づ其の御手《みて》を取らむと欲《おも》ふ」

そこで、その大国主神に尋ねて、

「今、お前の子コトシロヌシノカミは、このように申し終わったぞ。また、何か申す子がいるか」

そこで、また申すことに、

「我が子タケミナカタノカミがあります。これをおいて他にはありません」

このように申す間、そのタケミナカタノカミが、千引きの岩…千人が引っ張るような大きな重い岩を手先に差し上げて来て、言うことに、

「誰が我が国に来て、コソコソこのように言うのか。ならば、力競べをしようと思う。では、私が先ずその御手を取ろうと思う」

■建御名方神 諏訪大社の祭神。武田信玄が信奉したことで有名。

故《かれ》、其の御手《みて》を取らしむれば、即ち立氷《たつひ》に取り成し、亦《また》、剣《つるぎ》の刃《は》に取り成しき。

故《かれ》、爾《しか》くして、懼《を》ぢて退《しりぞ》き居《を》りき。爾《しか》くして、其の建御名方神《たけみなかたのかみ》の手を取らむと欲《おも》ひて、乞ひ帰《よ》せて取れば、若葦《わかあし》を取るが如く搤《と》り批《ひだ》きて投げ離《はな》てば、即ち逃げ去りき。

故《かれ》、追ひ往《ゆ》きて、科野国《しなののくに》の州羽海《うはのうみ》に迫《せ》め到りて、殺さむとせし時に、建御名方神《たけみなかたのかみ》の白《もー》ししく、

「恐《かしこ》し。我《あれ》を殺すこと莫《なか》れ。此地《こ》を除《お》きては、他《あた》し処《ところ》に行かじ。亦《また》、我《あ》が父・大国主神の命《みこと》を違《たが》はじ。八重事代主神《やえことしろぬしのかみ》の言《こと》に違はじ。此《こ》の葦原中国《あしはらのなかつくに》は、天《あま》つ神御子《みこ》の命《みこと》の随《まにま》に献《たてまつ》らむ」

そこで、その御手を取らせれば、すぐに手を氷の柱に変化させ、また、剣の刃に変化させた。

それで、これを恐れてタケミナカタノカミは逃げていった。

そこで、そのタケミカヅチノカミはそのタケミナカタノカミの手を取ろうと思って、自分から求めて引き寄せて取ったところ、若い葦を取るがごとくに取って、押しつぶして、投げ放ったので、すぐにタケミナカタノカミは逃げていった。

そこで、追いかけて、信濃国の諏訪湖まで追い詰めて、殺そうとした時に、タケミナカタノカミが申すことに、

「恐れ多いことです。私を殺さないでください。ここ以外には、他に所へは行きません。また我が父大国主神の命令に背きません。ヤエコトシロヌシノカミの命令に背きません。この葦原中国は、天つ神の御子の命のままに献りましょう」

■立氷 氷の柱。 ■取り成し タケミナカタの手をつかんで「立氷」に変化させること。 ■批《ひだ》きて 押しつぶして。 ■科野国《しなののくに》の州羽海《うはのうみ》 長野県の諏訪湖。

……

タケミカヅチがタケミナカタを投げ飛ばすのは相撲の起源だと言われています。そのため両国の国技館にはタケミカヅチvsタケミナカタの絵が掲げてあります。

話をまとめます。

高天原から交渉役としてタケミカヅチノカミ・アメノトリフネノカミが遣わされてくる。タケミカヅチノカミは剣の上にあぐらをかいて大国主神に国を譲れと迫る。大国主私では答えられないです。息子のヤエコトシロヌシノカミにきいてくれと言う。そこでヤエコトシロヌシノカミを呼び出したところ、国を譲りましょうと言う。

もう一人の息子・タケミナカタノカミはごちゃごちゃ言うやつはとっちめてやるぞの勢いで来るが、タケミカヅチノカミと勝負して、信濃の諏訪湖まで追い詰められ、とうとう国を譲ることを認めた、という話です。

次回「国譲り」に続きます。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

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朗読・解説:左大臣光永
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