古事記(十二)オオアナムヂの試練

こんにちは。左大臣光永です。お住いのご地域では、台風はどうだったでしょうか?京都では昨晩、夜通し吹き荒れました。さっき京都御所を歩いたみたら、松の枝が多数折れて、地面に投げ出されていました。ああ…これぞ嵐の去った後って感じでした。

さて「左大臣の古典・歴史の名場面」本日が1000回目になります。
『古事記』の第十二回、「オホアナムヂの試練」です。

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前回までの話です。

オホアナムヂノ命…後の大国主命は若い頃、たくさんの兄たち《八十神》にイジメられてばかりいました。ある時、ヤカミヒメという美しいお姫さまの噂をきいて、たくさんの兄たち《八十神》はヤカミヒメと結婚するために訪ねていきます。オホアナムヂは兄たちの荷物持ちをさせられます。

途中の海岸で赤裸の兎が痛い痛いと苦しんでいました。それを見て兄たちはウソの治療法を教えます。兎の症状は、さらに悪くなります。後から来たオホアナムヂは正しい治療法を教えます。すると、兎は元気になりました。

そこで兎が感謝して言うことに。私はヤカミヒメの使いです。あなたの兄たちはけしてヤカミヒメと結婚できません。あなたこそヤカミヒメにふさわしです。

ここまでが前回の話でした。

今回は、ヤカミヒメがオホアナムヂの兄たち(八十神)との結婚を断って、断られた八十神がオホアナムヂを逆恨みして、さまざまな意地悪をする、という場面です。

是《ここ》に、八上比売《やかみひめ》、八十神《やそがみ》に答へて言ひしく、

「吾《あれ》は、汝等《いましたち》の言《こと》を聞かじ。大穴牟遅神《おおあなむぢのかみ》に嫁《あ》はむ」

故《かれ》爾《しか》くして、八十神《やそがみ》、忿《いか》りて大穴牟遅神を殺さむと欲《おも》ひ、共に議《はか》りて、伯岐国《ほうきのくに》の手間《てま》の山本に至りて伝《い》はく、

「赤き猪《い》、此《こ》の山に在り。故《かれ》、われ、共に追ひ下らば、汝《なむち》、待ち取れ。若《も》し待ち取らずは、必ず汝を殺さむ」

と、伝《い》ひて、火を以《もち》て猪《い》に似たる大《おお》き石を焼きて、転《まろ》ばし落しき。爾《しか》くして、追ひ下り、取る時に、即ち其の石に焼き著《つ》けらえて死にき。

さて、ヤカミヒメが八十神に答えて言うことに、

「私は、あなた方の言うことを聞きません。オホアナムヂの神と結婚します」

そこで八十神は怒って、オホアナムヂを殺そうとして、一緒に相談して、伯耆国の手間の山本に至って言うことに、

「赤い猪が、この山にいる。だから、我々が一緒に追い下らせるので、お前は待っていて受け止めろ。もし受け止めないなら、必ずお前を殺すぞ」

そう言って、火で猪に似た大きな石を焼いて、転がし落とした。

そうして八十神が追いかけて下り、オホアナムヂが受け止めた時に、たちまちその石に焼き付けられて死んでしまった。

爾《しか》くして、其《そ》の御祖《みおや》の命《みこと》、哭《な》き患《うれ》へて、天に参《ま》ゐ上《のぼ》り神産巣日之命《かむむすひのみこと》に謂《もー》しし時に、乃《すなわ》ちキサ貝比売《きさがいひめ》と蛤貝比売《うむがいひめ》とを遣はして、作り活《い》けしめき。

爾《しか》くして、キサ貝比売《きさがいひめ》きさげ集めて、蛤貝比売《うむがいひめ》待ち承けて、母の乳汁《ち》を塗りしかば、麗《うるわ》しき壮夫《おとこ》と成りて、出《い》で遊び行《ある》きき。

そこでオホアナムヂの母君の命が泣き悲しんで、天に参上し、神産巣日之命《カムムスヒノミコト》に事の次第を報告した時に、すぐにカムムスヒノミコトはキサカヒ姫とウムカヒ姫とを遣わして、オホアナムヂを作り活かすようにされた。

こうしてキサカヒ姫は石に付着したオホアナムヂの死体をこそげ落とし、ウムカヒ姫がそれを待っていて受け止めて、母の乳を塗った所、立派な青年となって、出歩いたのだった。

……

兄たちの意地悪によって無残に殺されるも、神の力で復活したんですね。しかし、まだ兄たちは意地悪をします。

是《ここ》に、八十神《やそがみ》見て、且《また》、欺《あざむ》きて山に率《い》て入りて、大《おお》き樹《き》を切り伏せ、矢を茹《は》めて其《そ》の木に打ち立て、其の中に入らしめて、即ち其の氷目矢《ひめや》を打ち離《はな》ちて、拷《う》ち殺しき。

爾《しか》くして、亦《また》、其の御祖《みおや》の命《みこと》、哭《な》きつつ求めしかば、見ること得て、即ち其の木を析《さ》きて取り出だして活《い》け、其《そ》の子に告げて言はく、

「汝《なむち》は、此間《ここ》に有らば、遂《つい》に八十神《やそがみ》の滅ぼす所と為《な》らむ」

乃《すなわ》ち木国《きのくに》の大屋毘古神《おおやびこのかみ》の御所《みもと》に違《たが》へ遣《や》りき。

爾《しか》くして、八十神《やそがみ》覓《もと》め追ひ臻《いた》りて、矢刺して乞ふ時に、木の俣《また》より漏《く》け逃して伝《い》ひしく、

「須佐能男命《すさのおのみこと》の坐《いま》せる根堅州国《ねのかたすくに》に参《ま》ゐ向《むか》ふべし。必ず其《そ》の大神《おおがみ》、議《はか》らむ」

これを、八十神が見て、またオホアナムヂを騙して山に連れて入って、大きな樹を切り伏せて、くさびを打ち込んでその木に打ち立てて、オホアナムヂをその中に入らせて、とたんにその楔を撃ち抜いて、うち殺した。

そこでまた、オホアナムヂの母の命が、泣きながら我が子を探した所、見つけることができて、すぐにその木を割いて、取り出して復活させ、その息子に告げて言うことに、

「お前は、ここにいたら、最後は八十神に滅ぼされてしまうでしょう」

そこで紀伊国の大屋毘古神《オホヤビコノカミ》のみもとへ、人目を避けるために遣わした。

すると八十神はオホアナムヂを探して追いついて、弓に矢をつがえて、かくまっているオホヤビコノカミにオホアナムヂを引き渡すように要求した。その時にオホヤビコノカミはオホアナムヂを木の股からくぐり抜けさせて逃して言うことに、

「須佐能男命《スサノオノミコト》のいらっしゃる根堅州国《ねのかたすくに》に参り向かいなさい。必ずその大神は、力になってくれるだろう」

……

兄弟たちにさまざなに意地悪をされて、オホヤビコノカミに助けを求めたけれども、そこにも兄弟たちが追いかけてきた。そこで今度はオホヤビコノカミのすすめにより、スサノオノミコトのいる根堅州国《ねのかたすくに》に逃げることになります。

スサノオノミコトはいつの間にか根堅州国《ねのかたすくに》の主になってるんですね。

根堅州国《ねのかたすくに》と黄泉国《よみのくに》は名前が違っているので、違う国だという説と、同じ国だという説があります。どちらも出入り口は黄泉比良坂《ヨモツヒラサカ》ですので、どうやら同じ国を違う表現で言ってる気もします。

もともとスサノオノミコトは母イザナミに会いたい会いたいと言って黄泉国に行きたがってましたから、念願がかなったのかもしれないですね。

次回「スサノオの試練」に続きます。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

朗読・解説:左大臣光永
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