古事記(八)天の岩屋戸

こんにちは。左大臣光永です。

神社に絵馬が奉納してあるじゃないですか。あの絵馬をですね。他人の絵馬を。何書いてあるか覗いてみるのは、…ちっと趣味が悪いですね。プライバシーを覗き見するような。

しかし趣味が悪いと思いつつ、つい見てしまうことがあります。

東山の安井金比羅宮は縁切り(縁結び)神社として有名で、書いてあることも「今の職場が潰れますように」「某と某が別れますように」とか闇が深くて、…けっこうショックでした。

さて本日は『古事記』の八回目「天の岩屋戸」です。

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前回は「うけひ」の話でした。スサノオの身の潔白を証明するために、スサノオとアマテラスと「うけひ」《一種の占い》を行ってお互いに子を産もうということになった。そこでスサノオの剣からは三柱の女神が、アマテラスの玉飾りからは五柱の男神が生まれるところまでてした。

今回は「天の岩屋戸」です。

まず、「うけひ」は私の勝ちだといってスサノオが調子に乗る場面からです。
↓↓↓↓

爾《しか》くして、速須佐之男命《はやすさのおのみこと》、天照大御神《あまてらすおおみかに》に白《もー》さく、

「我が心、清く明るきが故に、吾生める子は、手弱女《たおやめ》を得つ。此《これ》に因りて言はば、自ら我《あれ》勝つ」

と伝ひて、勝ちさびに、天照大御神の営む田の阿を離し、其の溝を埋め、亦《また》、其の、大嘗《おおにへ》を聞し看《め》す殿に屎《くそ》まり散しき。故《かれ》、然為《しかす》れども、天照大御神は、とがめずして告《の》らさく、

「屎の如きは、酔ひて吐き散らすとこそ、我《あ》がなせの命《みこと》、如此《かく》為《し》つらめ。又、田の阿を離すことは、溝を埋むは、地をあたらしとこそ、我《あ》がなせの命《みこと》、如此《かく》為《し》つらめ」

と詔《の》りて直《なほ》せども、猶《な》ほその悪しき態《わざ》、止まずして転《うたた》あり。

そこでスサノオノミコトが、アマテラスオオミカミに申し上げた。

「私の心が清らく明るいから、私は女子を得たんです。ここから言うと、勝負は私の勝ちです」

スサノオはそう言って、勝ちの勢いに乗って、アマテラスオオミカミの作られる田の畔《あぜ》を壊し、その溝を埋め、また、アマテラスオオミカミが新嘗祭でその年はじめての穀物をお召し上がりになる(神聖な)御殿でクソを撒き散らした。

しかし、にもかかわらずアマテラスオオミカミは、咎めずにおっしゃった。

「あのクソのように見えるものは、酔ってヘドを吐き散らそうとして、私の弟は、あのようにしたのでしょう。また、田の畔を壊し溝を埋めたのは、土地がもったいないと思って私の弟はそのようにしたのでしょう」

と、良い方に解釈しなおしておっしゃったが、やはりクソを撒き散らすといった悪い行いは、止むこと無くしょっちゅう行われた。

……
このようにアマテラスオオミカミは弟の暴虐にも好意的な解釈をしていたけれども、スサノオは調子に乗る一方だった。そして遂に、取り返しのつかないことが起こります。
↓↓↓↓

天照大御神《あまてらすおおみかみ》、忌服屋《いみはたや》に坐《いま》して、神御衣《かむみそ》を織らしめし時に、其《そ》の服屋《はたや》の頂《いただき》を穿ちて、天《あめ》の斑馬《ふちうま》を逆剥ぎに剥ぎて、堕《おと》し入れたる時、天《あめ》の服織女《はとりめ》、見て驚き、梭《ひ》に陰上《ほと》を衝《つ》きて死にき。

アマテラスオオミカミが「忌服屋《いみはたや》」…神聖な機屋にいらして、神御衣《かむみそ》…神の衣を機織女たちに織らせていた時に、その機屋の屋根に穴を開けて、まだら馬の皮を逆さに剥ぎ取って、穴から落とし入れた時、機織り女がそれを見て驚いて、梭《ひ》…機織りの器具で陰部を突いて、死んでしまった。
……
ついに人死ならぬ神死にが出てしまったんですね。

そこでアマテラスオオミカミは、
↓↓↓↓

故是《かれここ》に、天照大御神、見畏《みかしこ》み、天《あめ》の岩屋の戸を開きて、刺しこもり坐《ま》しき。爾《しか》くして、高天原《たかまがはら》皆暗く、葦原中国《あしはらのなかつくに》悉《ことごと》く闇となる。

此に因《よ》りて常夜《とこよ》往《ゆ》きき。是《ここ》に、万《よろづ》の神の声は、狭蠅《さばえ》なす満ち、万《よろづ》の妖《わざわひ》、悉《ことごと》く発《おこ》る。

さてここに、アマテラスオオミカミは、これを見て恐れて、天の岩屋の戸を開いて、引きこもってしまわれた。こうして高天原は皆暗くなり、葦原中国はことごとく闇となった。これによって、夜がずっと続いた。ここに、大勢の神の声が五月のハエのようにやかましく満ちて、あらゆる災いが、ことごとく起こった。
……
ああなんてヒドいことをするのかしら!アマテラスオオミカミは恐れて、天の岩屋に引きこもってしまった。これにより世界から光が失われ、あらゆる災いが起こったと。

そこで、高天原の神々は集まって相談します。
↓↓↓↓

是《これ》を以て、八百万神《やおよろづのかみ》、天安河原《あやめやすのがわら》に神集ひ集ひて、高御産巣日神《たかみむすひのかみ》の子、思金神《おもひかねのかみ》に思はしめて、常世《とこよ》の長鳴鳥《ながなきどり》を集め、鳴かしめて、天《あめ》の安の河《かわ》の河上《かわかみ》の天《あめ》の堅石《かたしは》を取り、

天《あめ》の金山《かなやま》の銀《くろがね》を取りて、鍛人《かぬち》の天津麻羅《あまつまら》を求めて、伊斯許理度売命《いしこりどめのみこと》に科《おほ》せ、鏡を作らせ、玉祖命《たまのおやのみこと》に科《おほ》せ、八尺《やさか》の勾玉の五百津《いほつ》の御《み》すまるの珠《たま》を作らしめて、

天児屋命《あめのこやのみこと》・布刀玉命《ふとたまのみこと》を召して、天《あめ》の香山《かぐやま》の真男鹿《まをしか》の肩を内抜《うつぬ》きに抜きて、天の香山の天《あめ》のははかを取りて、占合《うらな》ひまかなはしめて、

天の香山の五百津《いほつ》真賢木《まさかき》を、根こじにこじて、上《かみ》つ枝《え》に八尺《やさか》の勾玉の五百津《いほつ》の御すまるの珠を取り著《つ》け、

中つ枝に八尺《やあた》の鏡を取り繋《か》け、下《しも》つ枝《え》に白丹寸手《しらにきて》・青丹寸手《あをにきて》を取り垂《し》でて、

此《こ》の種々《くさぐさ》の物は、布刀玉命《ふとたまのみこと》、ふと御幣《みてぐら》と取り持ちて、天児屋命《あめのこやのみこと》、ふと詔戸言(のりとごと)%#31153;(ほ)き白《もー》して、

天手力男神《あめのたぢからおのかみ》、戸の掖(わき)に隠れ立ちて、天宇受売命《あめのうずめのみこと》、手次《たすき》に天《あめ》の香山《かぐやま》の天《あめ》の日影《ひかげ》を繋繫《か》けて、

天《あめ》の真折《まさき》を縵《かづら》と為《な》して、手草《たぐさ》に天の香山の小竹《ささ》の葉を結ひて、天《あめ》の岩屋の戸にうけを伏せて、踏みとどろこし、神懸《かむが》かり為《し》て、

胸乳《むなち》を掛《か》き出だし、裳《も》の緒《お》をほとに忍《お》し垂れき。

爾《しか》くして高天原《たかまがはら》動《とよ》みて、八百万神《やろよろづのかみ》、共に咲《わら》ふ。

そこで、八百万の神々が、天《あめ》の安《やす》の河原に集まって、高御産巣日神《たかみむすひのかみ》の子、思金神《おもいかねのかみ》に考えさせて、常世《とこよ》の長鳴鳥《ながなきどり》を集めて鳴かせて、天の安の河の河上の堅い石を取り、

天の金山《かなやま》の鉄を取って、鍛冶である天津麻羅《あまつまら》を探してきて、伊斯許理度売命《いしこりどめのみこと》に命じて鏡を作らせ、玉祖命《たまのおやのみこと》に命じて、八尺《やさか》の勾玉を数多く長い緒に貫いた玉飾りを作らせて、

天児屋命《あめのこやのみこと》・布刀玉命《ふとたまのみこと》を召して、天の香山《かぐやま》の雄鹿の肩の骨をそっくり抜き取って、同じく天の香山のカニワ桜を取って、骨を焼いて占いをさせて、

天の香山の枝の繁った榊を根こそぎ抜いてきて、上の枝には八尺《やさか》の勾玉を数多く長い緒に貫いた玉飾りをかけて、中の枝には八尺の鏡をかけて、下の枝には白い幣《ぬさ》と青い幣をさげて、

この様々な品物は布刀玉命《ふとたまのみこと》が貴い御幣として取り持って、天児屋命《あめのこやのみこと》が貴い祝詞を奏上して、

天手力男神《あめのたぢからおのかみ》が戸の脇に隠れ立って、天宇受売命《あめのうずめのみこと》が天の香山の日陰蔓をたすきにかけて、

真折蔓《まさきかずら》を髪飾りにして、天の香山の笹の葉を束ねて手に持ち、天の岩屋の戸の前に桶を伏せて、踏みとどろかし、神がかりになって、乳房をかき出して、裳の紐を陰部までおし垂らした。

こうして、高天原は鳴り響くほど、八百万の神々がいっせいに笑った。

……
と、このようにして大いに盛り上がります。

岩屋の中のアマテラスオオミカミは、

あらっ、何かしら?

気になってきます。
↓↓↓↓

是《ここ》に、天照大御神《あまてらすおおみかみ》、怪《あや》しと以為《おも》ひ、天の岩屋の戸を細く開きて、内に告《の》らししく、

「吾《あれ》、隠れ坐《ま》すによりて、天《あま》の原自《おのづか》ら闇《くら》く、亦《また》、葦原中国《あしはらのなかつくに》も皆闇《くら》けと以為《おも》ふに、何の由《ゆえ》にか、天宇受売《あめのうずめ》は楽《あそび》を為《し》、八百万神《やおよろづのかみ》は諸《もろもろ》咲《わら》ふ」

爾《しか》くして天宇受売《あめのうずめ》白《もー》して言はく、

「汝《な》が命《みこと》に益して貴き神の座《いま》すが故に、歓喜《よろこ》びて咲《わら》ひ楽《あそ》ぶ」

如此《かく》言う間に、天児屋命《あめのこやのみこと》・布刀玉命《ふとたまのみこと》、其《そ》の鏡を指出《さしい》だし、天照大御神に示し奉《まつ》る時に、天照大御神、逾《いよいよ》奇《あや》しく思ひて、稍《ようや》く戸より出《い》でて、臨み坐《ま》す時に、

其《そ》の隠り立てる天手力男神《あめのたぢからおのかみ》、其《そ》の御手《みて》を取て引き出し、即ち布刀玉命《ふとたまのみこと》、尻くめ縄を以て其《そ》の御後方《みしりへ》に控《ひ》き度《わた》して、白《もー》して言ひしく、

「此《これ》より以内《うち》に還《かへ》り入ること得じ」

故《かれ》、天照大御神の出で坐《ま》しし時に、高天原《たかまがはら》及び葦原中国《あしはらのなかつくに》、自《おのづか》ら照り明ること得たり。

ここにアマテラスオオミカミは不思議に思って、天の岩屋の戸を細く開いて、岩屋の中でおっしゃることに、

「私が引きこもってるのだから、高天原は当然暗いし、葦原中国もぜんぶ暗くなってると思うけど、どうしてアメノウズメは歌って踊って、八百万の神々はみんな笑ってるの!」

そこでアメノウズメが申し上げて言うことに、

「あなた様よりも貴い神がいらっしゃるので喜んで笑い歌って踊ってるんです」

このように言っている間に、アメノコヤノコト・フトタマノミコトが、《さっき中の枝にかけていた》その鏡を差し出して、アマテラスオオミカミに示しまつった時に、アマテラスオオミカミはいよいよ不思議に思って、少しずつ戸から出て、鏡をご覧になった時に、

脇に隠れて立っていたアメノタヂカラオノ神が、その御手を取って引き出すと、すぐにフトタマノミコトが、注連縄をその後ろに引き渡して、申し上げて言うことに、

「ここから内側にお戻りになることはできません」

こうして、アマテラスオオミカミがお出ましになった時、高天原と葦原中国と、自然と日が照って、明るくなった。

……

というわけで日本人なら誰でも知ってる天の岩屋戸の話ですが…

この話は何を意味しているのか?

諸説ありますが…

まず岩屋のイメージは、古墳の石室を思わせます。だから岩屋に入るということは、そのままアマテラスの死を象徴しているかもしれません。

実際、岩屋にこもったアマテラスは神的な力を失い、世界は闇に閉ざされます。そして、ふたたび引っ張り出されるのは一度死んだものが蘇る復活のイメージ。

死と復活。

そしてこの死と復活のイメージは、穀物の収穫という話にもつながっていきます。

穀物は毎年死んで、生まれ変わり、豊かな実を実らせるわけです。宮中で今も毎年行われる新嘗祭は、その年にはじめてとれた穀物を天皇がお召し上がりになる儀式です。

アマテラスオオミカミは天皇家の祖ですから、新嘗祭、穀物の収穫ということからも、天の岩屋戸の神話が死と復活、そして穀物の収穫ということと、強く結びついてくるようです。

次回「スサノオの追放」です。お楽しみに。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうこざいました。

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朗読・解説:左大臣光永
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