古事記(二十一)天孫降臨

こんにちは。左大臣光永です。

先日、宇治の平等院に行ってきました。平等院ミュージアムに安置されている十一面観音立像かですね、光背ってのしょってるじゃないですか。わーーっと仏さまの後ろに光が差してるを表現したやつ。その光背にライトが当って、後ろの壁に複雑な影を落としている。その様子が実によかったです。

さて本日は、『古事記』の第二十一回
「天孫降臨」です。

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葦原中国がすっかり平定されると、天照大神の孫の邇邇芸命が選ばれて、天降りります。邇邇芸命は高天原を離れ、八重にたなびく雲かきわけて、日向の高千穂に降り立ち、その地に宮殿を構えます。

宮崎県 高千穂神社
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■京都講演「声に出して読む 小倉百人一首」4/28日
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爾《しか》くして、天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》の命《みこと》以《もち》て、太子《おほみこ》正勝吾勝々速日天忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》に詔《のりまた》ひしく、

「今、葦原中国《あしはらのなかつくに》を平《たい》らげ訖《をは》りぬと白《もー》す。故《かれ》、言依《ことよ》せ賜ひし随《まにま》に、降り坐《ま》して知らせ」

爾《しか》くして、其の太子《おほみこ》正勝吾勝々速日天忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》答へて白《もー》ししく、

「僕《やつかれ》が降らむと装束《よそ》へる間、子、生まれ出《いで》ぬ。名は天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命《あめにきしくににきしあまつひたかひこほのににぎのみこと》、此《こ》の子を降すべし」

此《こ》の御子《みこ》の、高木神《たかぎのかみ》の女《むすめ》、万幡豊秋津師比売命《よろづはたとよあきつしひめのみこと》に御合《みあひ》して、生みし子は、天火明命《あめのほあかりのみこと》、次に、日子番能邇々芸命《ひこほのににぎのみこと》、二柱ぞ。

是《これ》を以《もち》て、白《もー》しし随《まにま》に、日子番能邇々芸命《ひこほのににぎのみこと》に科《おほ》せて詔《のりたま》ひしく、

「此《こ》の豊葦原水穂国《とよあしはらのみずほのくに》は、汝《なむち》が知らさむ国と言依《ことよ》し賜ふ。故《かれ》、命《みこと》の随《まにま》に天降るべし」

宮崎県 天岩戸神社
宮崎県 天岩戸神社

こうして、天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》の仰せで、天照大御神の御子である正勝吾勝々速日天忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》に命じておっしゃった。

「今、葦原中国《あしはらのなかつくに》を平定し終わったと申している。そこで、(我々=天照大御神・高木神の)が委任した通り、(お前=天忍穂耳命は)天降って統治せよ」

そこで天照大御神の御子である正勝吾勝々速日天忍穂耳命《まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと》が答えて申し上げた。

「私が天降ろうとして準備をしている間に、子が生まれました。名は天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命《あめにきしくににきしあまつひたかひこほのににきのみこと》。この子を天降らせるのがよいでしょう」

この御子は高木神《たかぎのかみ》の女《むすめ》、万幡豊秋津師比売命《よろづはたとよあきつしひめのみこと》と結婚して生んだ子であって、天火明命《あめのほあかりのみこと》、次に、日子番能邇々芸命《ひこほのににぎのみこと》の二柱の神である。

そこで天忍穂耳命《あめのおしほみみのみこと》が申したままに天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》は邇々芸命《ににぎのみこと》に仰せを下してお命じになった。

「この豊葦原水穂国《とよあしはらのみずほのくに》は、お前(邇々芸命)が統治する国であると(天照大御神・高木神が)委任します。そこで、(お前=邇々芸命)は命令に従って天降りなさい」

爾《しか》くして、日子番能邇々芸命《ひこほのににぎのみこと》の天降らむとする時に、天の八衢《あめのやちまた》に居て、上《かみ》は高天原を光《てら》し、下《しも》は葦原中国を光《てら》す神、是《ここ》に有り。

故《かれ》爾《しか》くして、天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》の命《みこと》以《もち》て、天宇受売神《あめのうづめのかみ》に詔《のりたま》ひしく、

「汝《なむち》は、手弱女人《たわやめ》に有れども、いむかふ神と面勝《おもか》つ神ぞ。故《かれ》、専《もは》ら汝《なむち》往《ゆ》きて問はまくは、『吾《わ》が御子《みこ》の天降らむと為《す》る道に、誰《たれ》ぞ如此《かく》して居《を》る」

故《かれ》、問ひ賜ひし時に、答へて曰《もー》ししく、

「僕《やつかれ》は、国つ神、名は猿田毘古神《さるたびこのかみ》ぞ。出《い》で居《を》る所以《ゆゑ》は、天神御子《あまつかみみこ》の天降り坐《ま》すと聞きつるが故《ゆえ》に、御前《みさき》に奉《まつ》らむとして、参《ま》ゐ向へて侍り」

こうして、日子番能邇々芸命《ひこほのににぎのみこと》が天降ろうとしている時に、天の道がいくつにも別れた所に立って、上は高天原を照らし、下は葦原中国を照らす神が、ここにあった。

それで、天照大御神《あまてらすおおみかみ》・高木神《たかぎのかみ》の仰せとして、天宇受売神《あめのうづめのかみ》におっしゃった。

「お前はか弱い女ではあるが、敵とにらみあって、にらみ勝つ神である。そこでお前一人で行って、相手に質問せよ。『私の御子が天降ろうとしている道に、誰がこのようしているのか』と」

そこで、天宇受売神《あめのうづめのかみ》が相手にお尋ねになった時、相手は答えて申し上げた。

「私は、国つ神、名を猿田毘古神《さるたびこのかみ》と申します。出てきました理由は、天つ神御子が天降られると聞いたために、先頭に立ってお仕え申し上げようと思って、参上したのでこざいます」

■天の八衢 高天原から葦原中国の途中で、道が何方向にも分かれた所。 ■いむかふ 対抗する・敵対する。「い」は接頭語。 ■面勝つ にらみ勝つ。 ■専ら ひたすら。徹底的に。ここでは一人で。

爾《しか》くして、天児屋命《あめのこやのみこと》・布刀玉命《ふとたまのみこと》・天宇受売命《あめのうずめのみこと》・伊斯許理度売命《いしこりどめのみこと》・玉祖命《たまのおやのみこと》、あはせて五《いと》りの伴緒《とものを》を支《わか》ち加へて天降しき。

是《ここ》に、其のをきし八尺《やさか》の勾璁・鏡と草那芸剣《くさなぎのつるぎ》と、亦《また》、常世思金神《とこよのおもひかねのかみ》・手力男神《たぢからをのかみ》・天石門別神《あめのいわとわけのかみ》を副《そ》へ賜ひて、詔《のりたま》ひしく、

「此の鏡は、専《もは》ら我《あ》が御魂《みたま》と為《し》て、吾《あ》が前を拝《をろが》むが如く、いつき奉《まつ》れ。次に、思金神は、前《さき》の事を取り持ちて政を為《せ》よ」

此《こ》の二柱《ふたはしら》の神は、さくくしろ伊須受能宮《いすずのみや》を拝《おろが》み祭りき。次に、登由宇気神《とゆうえけのかみ》、此《これ》は、外宮《とつみや》の度相《わたらひ》に坐《いま》す神ぞ。

次に、天石戸別神《あめのいはとわけのかみ》、亦の名は、櫛石窓神《くしいはまとのかみ》と謂ひ、亦の名は、豊石窓神《とよいわまとのかみ》と謂ふ。此の神は、御門《みかど》の神ぞ。

次に、手力男神《たぢからをのかみ》は、佐那々県《さななあがた》に坐《いま》す。故《かれ》、其の天児屋命《あめのこやのみこと》は、中臣連等《なかとみのむらじら》が祖《おや》ぞ。

布刀玉命《ふとたまのみこと》は、忌部首等《いみべのおびとら》が祖ぞ。天宇受売命《あめのうづめのみこと》は、猿女君等《さるめのきみら》が祖ぞ。

伊斯許理度売命《いしことりどめのみこと》は、作鏡連等《かがみつくりのむらじら》が祖ぞ。玉祖命《たまのおやのみこと》は、玉祖連等《たまのおやのむらじら》が祖ぞ。

こうして、天児屋命《あめのこやのみこと》・布刀玉命《ふとたまのみこと》・天宇受売命《あめのうずめのみこと》・伊斯許理度売命《いしこりどめのみこと》・玉祖命《たまのおやのみこと》、合わせて五人の部民の部族長を分かち添えて天降した。

ここに、あの天の岩屋から天照大神《あまてらすおおみかみ》を招き出した、八尺《やさか》の勾璁・鏡と草那芸剣《くさなぎのつるぎ》と、亦《また》、常世思金神《とこよのおもひかねのかみ》・手力男神《たぢからをのかみ》・天石門別神《あめのいはとわけのかみ》をお添えになって、(天照大神が)命じておっしゃった。

「この鏡は、ひたすら私の御霊として、私の前を拝むように、大切に祀りなさい。次に、思金神は、今いったことを取り持って、政《まつりごと》を行いなさい」とおっしゃった。

この二柱の神(邇邇芸命と思金命)は、五十鈴宮《いすずのみや》を拝み祭った。次に、登由宇気神《とゆうえけのかみ》、これは《とつみや》の度相《わたらひ》に坐います神である。

次に、天石戸別神《あめのいわのわけのかみ》、亦の名は、櫛石窓神《くしいはまとのかみ》と謂ひ、亦の名は、豊石窓神《とよいはまとのかみ》という。此の神は、御門《みかど》(御所の門)の神である。

次に、手力男神《たぢからをのかみ》は、佐那々県《さななあがた》にいます。それで、その天児屋命《あめのこやのみこと》は、中臣連《なかとみのむらじ》らの祖先である。

布刀玉命《ふとたまのみこと》は、忌部首等《いみべのおびと》らの祖先である。天宇受売命《あめのうづめのみこと》は、猿女君等《さるめのきみ》らの祖先である。

伊斯許理度売命《いしことりどめのみこと》は、作鏡連《かがみつくりのむらじ》らの祖先である。玉祖命《たまのおやのみこと》は、玉祖連《たまのおやのむらじ》らの祖先である。

■天児屋命 中臣氏の祖とされる。 ■五(いと)り 五人。 ■伴緒(とものお) 「伴」は特定の職業についている職業集団=部民。「緒」は「伴」を統治するリーダー。 ■其のをきし 「其の」は「あの」。「をきし」は招く。アマテラスオオミカミを天の岩屋から招き出したことを指す。 ■さくくしろ伊須受能宮《いすずのみや》 後の伊勢神宮内宮。「さくくしろ」は枕詞。 ■登由宇気神 豊宇気毘売神に同じ。伊勢神宮外宮の祭神。 ■度相《わたらひ》 後の伊勢国度会郡。三重県伊勢市周辺。 ■佐那々県《さななあがた》 「佐那の県」。三重県多気郡多気町あたり。 ■中臣連 宮廷の祭祀を司る氏族。中臣鎌足が出て藤原氏の祖となる。 ■忌部首 宮廷の祭祀に使う物資を献上する氏族。 ■猿女君 宮廷の鎮魂の儀式の時舞楽を舞う女を献上する氏族。 ■作鏡連 宮廷の儀式で使う鏡を製作する氏族。 ■玉祖連 宮廷の儀式に使う玉を製作する氏族。

故《かれ》爾《しか》くして、天津日子番能能邇々芸命《あまつひこほのににぎのみこと》に詔《のりたま》ひて、天《あめ》の石位《いはくら》を離れ、天《あめ》の八重のたな雲を押し分けて、いつのちわきちわきて、天《あめ》の浮橋に、うきじまり、そりたたして、竺紫《つくし》の日向《ひむか》の高千穂《たかちほ》の久士布流多気《くじふるたけ》に天降り坐《ま》しき。

故《かれ》爾《しか》くして、天忍日命《あめのおしひのみこと》・天津久米命《あまつくめのみこと》の二人、天《あめ》の石靫《いはゆき》を取り負ひ、頭椎《かぶつち》の大刀《たち》を取り佩《は》き、天《あめ》のはじ弓を取り持ち、天《あめ》の真鹿児矢《まかこや》を手挟《たばさ》み、御前《みまえ》に立ちて仕へ奉《まつ》りき。

故《かれ》、其の天忍日命《あめのおしひのみこと》、此《こ》は、大伴連等《おおとものむらじら》が祖《おや》ぞ。天津久米命《あまつくめのみこと》、此《こ》は、久米値等《くめのあたひら》が祖《おや》ぞ。

是《ここ》に、詔《のりたま》はく、

「此地《ここ》は、韓国《からくに》に向かひ、笠沙《かささ》の御前《みさき》を真来《まき》通りて、朝日の直刺《たださ》す国、夕日の日照《ひで》る国ぞ。故《かれ》、此地《ここ》は、甚《いと》吉《よ》き地《ところ》」

と詔《のりたま》ひて、底津石根《そこついわね》に宮柱ふとしり、高天原に氷椽《ひぎ》たかりして坐《いま》しき。

そこで、(天照大神と高木神は)天津日子番能能邇々芸命《あまつひこほのににぎのみこと》にお命じになって、邇々芸命《ににぎのみこと》は高天原にある石のように堅固な神の座を離れ、八重にたなびく雲を押し分けて、威風堂々と道をお選びになり、高天原と葦原中国の間にかかった天の浮橋にすっくとお立ちになり、筑紫《つくし》の日向《ひむか》の高千穂の久士布流多気《くじふるたけ》に天降られた。

そこで、天忍日命《あめのおしひのみこと》・天津久米命《あまつくめのみこと》の二人が、天《あめ》の石靫《いはゆき》をしょって、頭椎《かぶつち》の大刀《たち》を佩《は》いて、天《あめ》のはじ弓を持って、天《あめ》の真鹿児矢《まかこや》を手挟《たばさ》んで、先頭に立って先導申し上げた。

その天忍日命《あめのおしひのみこと》は、大伴連《おおとものむらじ》らの祖先である。天津久米命《あまつくめのみこと》は、久米値《くめのあたひら》らの祖先である。

こうして邇々芸命《ににぎのみこと》はおっしゃった。

「ここは、朝鮮に向かい合い、笠沙《かささ》の御前《みさき》をまっすぐ通って、朝日がじかに刺す国、夕日が照らす国である。だから、ここは、とても良い所だ」

そうおっしゃって大盤石の上に太い柱を立てて、高天原に千木を高々とそびえさせるほどの立派な宮殿を建ててお住いになった。

■天《あめ》の石位《いはくら》 高天原にある石のように堅固な神の座。 ■いつのちわきちわきて 「いつの」は荘厳な。「ち」は道。「わきて」は「選んで」。威風堂々と道を選んで。 ■天の浮橋 高天原と葦原中国の途中にあるはしごOR階段。イザナキ・イザナミの国造り神話で登場。 ■うきまじり 語義不明。 ■そりたたして すっくと立って。 ■高千穂 九州の地名。宮崎の高千穂説と鹿児島の霧島説があるが、現実の場所を求めるよりも神話世界の話と取るべき。 ■久士布流多気《くじふるたけ》 山の名。所在不明。 ■天忍日命 大伴氏の祖。 ■天《あめ》の石靫《いはゆき》 「石」は堅固であること。「靫」は矢を入れる入れ物。 ■頭椎《かぶつち》の大刀《たち》 柄の先が握りこぶしのようになった太刀。 ■天のはじ弓 はぜの木で作った弓。 ■天《あめ》の真鹿児矢《まかこや》 「かこ」は輝くの意。 ■韓国《からくに》 古代朝鮮。 ■笠沙《かささ》の御前《みさき》 後にニニギがコノハナノサクヤビメと出会う。 ■真来《まき》通りて まっすぐ通ってきて。

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小倉百人一首の歌を声を出して読み、
解説していきます。

特に、歌や作者に関係した京都周辺の名所については
詳しく解説していきますので、旅や散策のヒントにもなります。

朗読・解説:左大臣光永
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