『古事記』23回 山幸彦・海幸彦
さっき買い物のついでに白峯神宮に参拝してきました。崇徳上皇をまつる神社です。小雨ふる日の神社はいいですね。銅葺きの屋根が雨に濡れて白く光っているのが、とてもきれいです。木々の梢に水滴がしたたってるのもいいです。普段と違う新鮮なかんじがありました。
本日は『古事記』の第23回、「山幸彦・海幸彦」です。
ニニギノミコトとコノハナノサクヤビメから生まれた兄弟は海幸彦・山幸彦となり、それぞれ海と山で獲物を取って暮らしていました。ある日、弟山幸彦が、兄海幸彦に、お互いの道具を交換しようと言い出したことから、ややこしいことになります。
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故《かれ》、火照命《ほでりのみこと》は、海佐知毘古と為《し》て、鰭《はた》の広物《ひろもの》・鰭《はた》の狭物《せばもの》を取り、火遠理命《ほをりのみこと》は、山佐知毘古《やまさちびこ》と為《し》て、毛の麁物《あらもの》・毛の柔物《にこもの》を取りき。
爾《しか》くして、火遠理命《ほをりのみこと》、其の兄《え》火照命《ほでりのみこと》に謂《い》はく、
「各《おのおの》さちを相易《あいか》へて用ゐむと欲《おも》ふ」
三度《みたび》乞へども、許さず。
然《しか》れども、遂に纔《わづ》かに相易ふること得たり。
さて、火照命《ほでりのみこと》は、海佐知毘古として、大小の魚を取り、火遠理命《ほをりのみこと》は、山佐知毘古《やまさちびこ》として、さまざまな獣を取っていた。
■鰭《はた》の広物《ひろもの》・鰭《はた》の狭物《せばもの》 大小の魚。海産物。 ■毛の麁物《あらもの》・毛の柔物《にこもの》 毛の荒い者。毛の柔らかい者。さまざまな獣。
そこで、火遠理命が火照命に言った。
「おのおの、獲物を取るための道具を取り替えて使ってみたいです」
三度願ったが、兄は許さなかった。しかし、ついにちょっとだけ交換してみようということになった。
■さち 獲物を取るための道具。
爾《しか》くして、火遠理命《ほをりのみこと》、海さちを以《もち》て魚《うを》を釣るに、都《かつ》て一つの魚も得ず。亦《また》、其の鉤《ち》を海に失ひき。
是《ここ》に、其の兄《え》火照命《ほでりのみこと》、其の鉤《ち》を乞ひて曰ひしく、
「山さちも、己《おの》がさちさち、海さちも、己《おの》がさちさち。今は各《おのおの》さちを返さむと謂《おも》ふ」
といひし時、其の弟《おと》火袁理命《ほをりのみこと》答へて曰《いひ》しく、
「汝《なむち》が鉤《ち》は、魚《うを》を釣るに、一つの魚も得ずして、遂に海に失ひき」
こうして、火遠理命は海の獲物を取るための道具をもって魚を釣ったが、ただの一尾も釣れなかった。また、その釣り針を海に落としてしまった。
ここに、その兄火照命は、その釣り針を求めて言った。
「山の獲物も、自分の道具だからうまく取れる。海の獲物も、自分の道具だからうまく取れる。今はお互いに道具をもとに返そうではないか」
といった時、その弟火遠理命が答えて言った。
「兄さんの釣り針は、魚を釣った時に、一尾の魚も釣れずに、ついに海になくしてしまいました」
然《しか》れども、其の兄《え》、強《あなが》ちに乞ひ徴《はた》りき。
故《かれ》、其の弟《おと》、御佩《みは》かしせる十拳《とつか》の剣《つるぎ》を破りて、五百《いほ》の鉤《ち》を作りて償《つぐの》へども、取らず。
亦《また》、一千《ち》の鉤《ち》を作りて償《つくの》へども、受けず。云ふ、
「猶《なほ》、其の正《まさ》しき本《もと》の鉤《ち》を得むと欲《おも》ふ」
しかしその兄は、強引に釣り針を求めた。そこでその弟は、腰に佩いていた十拳の剣を砕き、五百の釣り針を作り、償いとしたが、兄は受け取らなかった。また、千の釣り針を作り、償いとしたが、兄は受け取らず、言った。
「やはり、正真正銘の本の釣り針を手に入れたいと思う」
是《ここ》に其の弟《おと》、泣き患《うれ》ひて、海辺《うみへ》に居《を》る時、塩椎神《しほつちのかみ》、来て、問ひて曰《いー》ひしく、
「何ぞ、虚空津日高《そらつひたか》の泣き患《うれ》ふる所以《ゆえ》は」
答へて言《いー》しく、
「我《あれ》、兄と鉤《ち》を易《か》へて、其の鉤《ち》を失ひき。是《ここ》に、其の鉤《ち》を乞ふが故に、多《あま》たの鉤《ち》を償《つくの》へども、受けず、伝ひつらく、猶《なほ》、其の本《もと》の鉤《ち》を得むと欲《おも》ふと。故《かれ》、泣き患《うれ》ふるぞ」
爾《しか》くして、塩椎神《しほつちのかみ》の伝《い》はく、
「我《あれ》、汝命《ながみこと》の為《ため》に善《よ》き議《はかりごと》を作《な》さむ」
即ち無間勝間《まなしかつま》の小船《をぶね》を造り、其の船に載せて、教へて曰《い》ひしく、
「我《あれ》、其《そ》の船を押し流さば、差《やや》暫《しま》らく往《ゆ》け。味《うま》し路《みち》有らむ。乃《すなは》ち其の道に乗りて往《ゆ》かば、魚鱗《いろこ》の如く造れる宮室《みや》、其れ綿津見神之宮《わたつみのかみのみや》ぞ。其の神の御門《みかど》に到らば、傍《かたは》らの井上《ゐのへ》に湯津香木《ゆつかつら》有らむ。故《かれ》、其の木の上に坐《いま》さば、其の海の神の女《むすめ》、見て相議《あいはか》らむぞ」
そこで、その弟は泣き悩んで、海辺に座っていた時に、塩椎神《しおつちのかみ》が来て、質問して言った。
「どうして虚空津日高(空の中程にあって日を高く仰ぐような尊い神)は泣き悩んでいるのか」
火遠理命は答えて言った。
「私は兄と釣り針を交換して、その釣り針を失いました。そこで、その釣り針を兄が求めるので、多くの釣り針を償いとしようとしましたが、兄は受け取らず、言うことに、『やはりその本の釣り針がほしい』というのです。それで、泣き悩んでいるのです」
そこで塩椎神が言った。
「私はあなた様のためによいことをしましょう」
すぐに竹で編んで小船を作り、その竹と竹の間は隙間のないようにして、その船に(火遠理命を)乗せて、教えて言った。
「私がその船を押し流したら、ややしばらく進んでいけ。よい潮路があるだろう。すぐにその潮路に乗って行けば、魚の鱗のように作った宮殿がある。それは綿津見神の宮であるぞ。その神の宮の門前まで行ったら、かたわらの井戸の上に、神聖な桂の木があるだろう。そこで、その木の上に座っていらっしゃれば、その海の神の娘が、お前を見て、相談に乗ってくれよう」
■無無勝間 竹をびっちり組み合わせて、竹と竹の間に隙間が一切無い状態。 ■湯津香木 神聖な桂の木。
故《かれ》、教《をしへ》の随《まにま》に少し行くに、備《つぶ》さに其の言《こと》の如くなり。即《すなは》ち、其の香木《かつら》に登りて坐《いま》しき。
爾《しか》くして、海の神の女《むすめ》・豊玉毘売《とよたまびめ》の従婢《つかひめ》、玉器《たまもひ》を持ちて水を酌《く》まむとする時、井に光有り。仰《あふ》ぎ見れば、麗《うるは》しき壮夫《をとこ》有り。甚《いと》異奇《あや》しと以為《おも》ひき。
爾《しか》くして、火遠理命《ほをりのみこと》、其の婢《つかひめ》を見て、「水を得むと欲《おも》ふ」と乞ひき。
婢《つかひめ》、乃《すなは》ち水を酌《く》み、玉器《たまもひ》に入れて貢進《たてまつ》りき。爾《しか》くして、水を飲まずして、御頸《みくび》の璵《たま》を解きて、口に含《ふふ》みて、其の玉器《たまもひ》に唾《は》き入れき。
是《ここ》に、其の璵《たま》、器に著《つ》きて、婢《つかひめ》、璵《たま》を離すこと得ず。故《かれ》、璵《たま》を著《つ》け任《なが》ら、豊玉毘売命《とよたまびめのみこと》に進《たてまつ》りき。
そこで、教えのままに少し行くと、いちいち塩椎神の言った言葉の通りであった。すぐにその桂の木に登って座っていらっしゃった。こうして、海の神の娘・豊玉毘売の下女が、容器を持って水を汲もうとする時に、井戸に光があった。
仰ぎ見れば、立派な男がいる。下女はたいそう妙だと思った。こうして、火遠理命は、その下女を見て、「水がほしい」と頼んだ。
下女はすぐに水を汲み、容器に入れて差し上げた。こうして、水は飲まず、首に巻いていた玉飾りを解いて、口に含んで、その容器に吐き入れた。
その玉は、容器にひっついて、下女は、玉を離すことができなかった。そこで、玉をつけたまま、豊玉毘売に差し上げた。
爾《しか》くして、其の璵《たま》を見て、婢《つかひめ》に問ひて曰《い》ひしく、
「若《も》し、人、門《かど》の外《と》に有りや」
答へて曰《い》ひしく、
「人有り。我《あ》が井上《いのへ》の香木《かつら》の上に坐《いま》す。甚《いと》麗《うるは》しき壮夫《をとこ》ぞ。我《わ》が王《きみ》にも益して甚《いと》貴《とーと》し。故《かれ》、其の人水を乞ふが故に、水を奉《まつ》れば、水は飲まずして、此の璵《たま》を唾《は》き入れつ。是《これ》、離《はな》つこと得ず。故《かれ》、入れ任《なが》ら、将《も》ち来たて献《たてまつ》りつ」
そういうわけで、豊玉毘売は、その玉を見て、下女に質問した。
「もしかして人が門の外にあるの」
答えて言った。
「人があって、わが井戸の上にいらっしゃいます。たいそう立派な青年ですねえ。我らの王にも増して、尊い様子です。そこで、その人が水を求めたので、水を差し上げたら、水は飲まずに、この玉を吐き入れたのです。これは、離すことができません。それで、入れたまま、持ってきて差し上げるのです」
爾《しか》くして、豊玉毘売命《とよたまびめのみこと》、奇《あや》しと思ひ、出《い》で見て、乃《すなは》ち見感《みめ》でて、目合《めくはせ》して、其の父に白《もー》して曰《い》ひしく、
「吾《わ》が門《かど》に麗はしき人有り」
爾《しか》くして海の神、自ら出《い》で見て、云《い》はく、
「此の人は、天津日高之御子《あまつひだかのみこ》、虚空津日高《そらつひたか》ぞ」
即ち内に率《ゐ》て入《い》りて、みちの皮の畳を八重に敷き、亦《また》、絁畳《きぬたたみ》を八重に其の上に敷き、其の上に坐《いま》せて、百取《ももとり》の机代《つくえしろ》の物を具《そな》へ、御饗《みあへ》を為《し》て、即ち其の女《むすめ》豊玉毘売と婚《あ》はしめき。故《かれ》、三年に至るまで其の国に住みき。
そこで、豊玉毘売は不思議に思って、門を出て火遠理命を見て、その姿に感じ入って、目配せして、その父に申し上げた。
「わが門のところに立派な人があります」
そこで海の神は自ら出て見て、言った。
「この人は天津日高の御子、虚空津日高ぞ」
そう言ってすぐに火遠理命を中につれて入って、アシカの皮の敷物を八重に敷き、また、絹の敷物を八重にその上に敷き、その上に座らせて、さまざまの結納の品を机の上に置いて、饗応をして、すぐにその娘・豊玉毘売と結婚させた。その後三年に至るまで、その国に住んだ。
■天津日高の御子、虚空津高 「天津日高」も「虚空津高」も「高く日を仰ぐほどの立派な神」をさすが、「天津日高」は天つ神であるのに対し「虚空津高」は地上から「空」を仰いでいるので「地上」に比重があり、国つ神をさすか。 ■みち アシカ。 ■畳 敷物。
次回「『古事記』24回「火遠理命《ホオリノミコト》の帰還」に続きます。お楽しみに。
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語り継ぐ日本神話 神代篇・人代篇
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「語り」による「聴く」日本神話。上巻・下巻あわせて『古事記』のほぼ全体を、現代の言葉でわかりやすく語っています。
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