『古事記』第25回 ホヲリノミコトの帰還

こんにちは。左大臣光永です。先日、静岡で川中島合戦について講演してきました。いつも思うのですよ。武田信玄と上杉謙信はさっさと同盟むすんで、織田・徳川と戦うべきだったと。川中島みたいな、どうでもいい場所で、延々モメてる場合じゃなかろうにと。なにか、意地みたいなものがあったんですかねえ…

本日は『古事記』の第24回「ホヲリノミコトの帰還」です。

山幸彦=火遠理命(ホヲリノミコト)は海の向こうの綿津見の神の宮で海の神の娘・豊玉姫と結婚し、三年を過ごしました。しかし三年目に、ふと思い出します。綿津見の神の宮に来た、そもそもの目的を。それは、失くした兄の釣り針を探すことでした。

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是《ここ》に、火袁理命《ほをりのみこと》、其の初めの事を思ひて、大きに一たび歎きき。故《かれ》、豊玉毘売命《とよたまびめのみこと》、其の嘆きを聞きて、其の父に白《もー》して言ひしく、

「三年《みとせ》住めども、恒は嘆くこと無きに、今夜《こよひ》、大きに一つ嘆きを為《し》つ。若《も》し何の由《ゆえ》ある」

故《かれ》、其の父の大神《おほかみ》、其の聟夫《むこ》に問ひて曰《い》ひしく、

「今旦《けさ》、我《あ》が女《むすめ》の語るを聞くに、伝《い》ひしく、『三年《みとせ》坐《い》ませども、恒《つね》は嘆く事無きに、今夜《こよひ》大《おほ》きに嘆きを為《し》つ』。若《も》し由《ゆえ》有りや。亦《また》、此間《ここ》に到りし由《ゆえ》は、奈何《いかん》」

爾《しか》くして、其の大神《おほかみ》に語ること、備《つぶ》さに其の兄《え》の失せたる鉤《ち》を罰《はた》りし状《かたち》の如《ごと》し。

さて、火遠理命は、ここ綿津見宮に来たそもそもの目的を思い出して、大きなため息をひとつついた。そこで、豊玉毘売命は、そのため息を聞いて、その父に申し上げた。

「三年住んでも、いつもはため息をつくことはなかったのに、今夜大きな一つのため息をつきました。なにかわけがあるのでしょうか」

そこで、その父の大神が、その婿に質問して、

「今朝、私の娘が語るのを聞くと、こう言うのです。『三年いらっしゃっても、いつもはため息をつくことはないのに、今夜大きなため息をついた』と。もしかしてわけがあるのですか。また、ここに来た理由は何です」

そこで、その大神に語って、その兄が失った釣り針を返せと要求した、その様子のままに事細かに語った。

是《ここ》を以《もち》て、海の神、悉《ことごと》く海の大《おほ》き小《ちひ》さき魚《うを》を召し集めて問ひて曰《い》ひしく、

「若《もし》此《こ》の鉤《ち》を取りし魚《うを》の有りや」

故《かれ》、諸《もろもろ》の魚《うを》が白《もー》ししく、

「頃《このごろ》は、赤海鯽魚《たひ》、『喉《のみと》に鯁《のぎた》ちて、物を食ふこと得ず』と愁へて言へり。故《かれ》、必ず是《これ》を取りつらむ」

これによって、海の神は、ことごとく海の大きい魚小さい魚を召し集めて、質問した。

「もしやこの釣り針を取った魚はいるか」

そこで諸々の魚が申し上げた。

「最近は鯛が、『喉に刺さって、物を食うことができない」と困って言ってました。だから、必ずこの釣り針を取ったのでしょう」

是《ここ》に、赤海鯽魚《たひ》の喉《のみと》を探れば、鉤《ち》有り。即ち、取り出《い》でて清め洗ひ、火遠理命《ほをりのみこと》に奉《まつ》りし時、其の綿津見大神《わたつみのおほかみ》、誨《おし》へて曰《い》はく、

「此《こ》の鉤《ち》を以《もち》て其の兄《え》に給はむ時、言はむ状《かたち》は、『此《こ》の鉤《ち》は、おぼ鉤《ち》・すす鉤《ち》・貧鉤《まづち》・うる鉤《ち》』と伝《い》ひて、後手《しりへで》に賜《たま》へ。然《しか》くして、其の兄《え》高田《たかた》を作らば、汝命《ながみこと》は、下田《ひくた》を営《つく》れ。其の兄《え》下田《ひくた》を作らば、汝命《ながみこと》は高田を営《つく》れ。

然為《しかせ》ば、吾《あれ》水を掌《つかさど》るが故に、三年《みとせ》の間、必ず、其の兄《え》、貧窮《まづ》しくあらむ。若《も》し其の然為《しかす》る事を悵怨《うら》みて、攻め戦はば、塩盈珠《しほみちのたま》を出《い》だして溺《おぼ》せよ。

若《も》し其《それ》愁ひ請はば、塩乾珠《しほひのたま》を出《い》だして活けよ。如此《かく》惚《なや》み苦しめよ」と伝《い》ひて、塩盈珠《しほみちのたま》・塩乾珠《しほひのたま》をあはせて両箇《ふたつ》授けて、即ち悉くワニを召し集めて、問ひて曰《い》ひしく、

「今、天津日高《あまつひだか》の御子《みこ》、虚空津日高《そらつひだか》は、上《うは》つ国に出幸《いでま》さむと為《す》。誰者《たれ》か幾日《いくか》に送り奉《まつ》りて覆《かへりごと》奏《もー》さむ」

そこで、鯛の喉を探ると、釣り針がある。すぐに取り出して、清め洗って、火遠理命に差し上げる時に、その綿津見大神が火遠理命に教えて言った。

「この釣り針をあなたの兄に与える時に、こう言いなさい。『この釣り針は、ぼんやり針・怒り針・貧乏針・バカ針』そう言って、手を後ろにまわして返し与えなさい。そうして、その兄が高い土地に田を作れば、あなた様は低い土地に田を作りなさい。その兄が低い土地に田を作れば、あなた様は高い土地に田を作りなさい。そうすれば、私は水を支配しますから、三年の間、必ず、その兄は貧しくなるでしょう。もしこうしたやり方を恨んで、攻撃してきた時は、塩盈珠《しほみちのたま》を出して溺れさせなさい。もしその兄が後悔して謝ってくるなら、塩乾珠《しほひのたま》を出して生かしなさい。このようにして困らせ苦しめなさい」

そう言って、塩盈珠《しほみちのたま》・塩乾珠《しほひのたま》をあわせて二つ授けて、すぐに海中のワニ(サメ)を召し集め、ご質問なさった。

「今、天津日高《あまつひたか》の御子、虚空津日高《そらつひたか》が、上のほうにある国においでになろうとしている。誰が何日でお送り申し上げて戻ってきて報告するのか」

故《かれ》、各《おのおの》己《おの》が身の尋長《ひろたけ》の随《まにま》に、日を限りて白《もー》す中に、一尋わにの白《もー》ししく、

「僕《やつかれ》は、一日《ひとひ》に送りて即ち還《かへ》り来ぬ」

故《かれ》爾《しか》くして、其の一尋わにに告《の》らさく、

「然らば、汝《なむち》、送り奉《まつ》れ。若《も》し海中を度《わた》さむ時は、惶《おそ》り畏《かしこま》らしむること無かれ」

即ち其のわにの頸《くび》に載《の》せて送り出《いだ》しき。故《かれ》、期《ちぎ》りしが如く、一日《ひとひ》の内に送り奉《まつ》りき。

其のわに返らむとせし時に、佩《は》ける紐小刀《ひもかたな》を解きて、其の頸《くび》に著《つ》けて返しき。故《かれ》、其の一尋《ひとひろ》わには、今に佐比持神《さひもちのかみ》と謂ふ。

そこで、各々自分の体の大きさにまかせて、日を限って申し上げる中に、一尋わに(両手を広げた長さのサメ)が申し上げて、

「私は一日で送ってすぐに還ってくるでしょう」

そこでこうして、その一尋わにに仰せられた。「ではお前がお送りしろ。もし海の中を渡る時は、恐ろしい思いをさせないようにしろ」

すぐにそのサメの背中に火遠理命を乗せて送り出した。すると、約束したように一日の内にお送り申し上げた。

そのわにが返ろうとする時に、火遠理命は腰に佩いていた紐小刀を解いて、サメの頸につけて返した。それで、その一尋わには、今に佐比持神《さひもちのかみ》という。「佐比」は小刀。小刀を持つ~。

■おぼ鉤《ち》・すす鉤《ち》・貧鉤《まづち》・うる鉤《ち》 「おぼ」はぼんやり。「すす」は猛り狂うこと。「貧」は貧乏。「うる」は愚かであること。■高田 高地にある田。 ■尋 両手を広げた長さ。

是《ここ》を以《もち》て、備《つぶ》さに神の教えし言《こと》の如く、其の鉤《ち》を与へき。故《かれ》、爾《それ》より後は、稍《よーや》く兪《いよ》よ貧しくして、更に荒き心を起こして迫め来《き》たり。攻めむとする時は、塩盈珠《しほみちのたま》を出《い》だして溺れしめき。

其《それ》愁へ請《こ》へば、塩乾珠《しほひのたま》を出《い》だして救ひき。

如此《かく》惚《なや》み苦しめし時に、稽首《ぬかつ》きて白《もー》ししく、

「僕《やつかれ》は、今より以後《のち》、汝命《ながみこと》の昼夜の守護人《まもりびと》として仕へ奉《まつ》らむ」

故《かれ》、今に至るまで其の溺《おぼほ》れし時の種々《くさぐさ》の態《わざ》絶えずして、仕え奉《まつ》るぞ。

これによって、すべて神の教えのままに、その釣り針を兄に与えた。それで、それより後は兄はさらにいよいよ貧しくなり、まったく荒い心を起こして攻めて来た。兄が攻めようとしてきた時は、塩盈珠《しほみちのたま》を出して溺れさせた。

兄が嘆いて謝ってくると、塩乾珠《しほひのたま》を出して助けた。

このように悩み苦しめていたら、兄は地面に頭をこすりつけて、申し上げた。

「私は今から後は、あなた様の昼と夜の警護人として、お仕え申し上げます」

それで、今に至るまで、(ホデリノミコトの子孫は)その溺れるときのさまざまの仕草を絶やさずに伝え、(ホヲリノミコトの子孫に)お仕え申し上げているのである。

……
弟が海の神のスペシャルアイテムによって、水をあやつって、兄を懲らしめ、政権を握るまでです。海の神の懲らしめ方は、かなりえげつないですね。

次回『古事記』第25回「ウガヤフキアエズの誕生」に続きます。

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「語り」による「聴く」日本神話。上巻・下巻あわせて『古事記』のほぼ全体を、現代の言葉でわかりやすく語っています。

朗読・解説:左大臣光永

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